有樹達は各々の武器を構えそして攻撃を開始した。周りでは人が逃げている。好都合だ。
何の前触れも無くノーバディやハートレス達に雷が迸る。カイリがサンダラで先手を打ったのだ。そしてそれを合図に有樹達は四方に散らばる。それぞれ素早くハートレスから倒していき、あらかた倒した所で先ほどから無視していたノーバディに向き直る。
気合と共に有樹はノーバディに切りかかる。
「ナメルナ!」
その言葉と共に有樹のジェントルウインドはノーバディの爪により防がれた。ふと、有樹はきになった。この世界では自分達の言葉は頭の中に聞こえる。ならば何故。
―お前達、何故普通に喋れる―
その疑問にノーバディはニタリと(口が無いので分からないが恐らく)笑った。
「ソレハワレラハ、ハルバードサマニヨッテ、シャベレルヨウニナッテイルカラダ。コノマチノジュウニントチガッテナ」
―それさえ分かればいい。最終的にハルバードという奴は倒すしな―
「ホザケ」
―さっさと終わらせて貰おうか!―
有樹の叫び声と共に風が刃となり、ノーバディと、少数になったハートレスを切り捨てる。切られたノーバディは叫び声を上げ、ハートレスと同じように消えた。
―次!―
有樹は次のノーバディに狙いを定め、また斬りかかっていった。が、また止められた。
「コンドハ、コチラカライクゾ」
そういうなり、ノーバディも鋭い爪を有樹に見せ付け翻弄する。そして間を置かずに爪を振り下ろす。しかし有樹は爪をキーブレードで防ぎ、弾いた。しかし。
「シネ!」
―後ろ!?―
目の前にいたノーバディに気を取られていたらしく、後ろにいるノーバディに注意が行っていなかった。そこをノーバディは突き、前後から襲いかかる。
―トラヴァースタウンに居た四日間。俺は遊んでいた訳じゃない!―
そう叫ぶと同時に有樹の周りを風が纏う。防御の為にソラから教えてもらったエアロラだ。風の防御壁はノーバディの爪を弾き更に攻撃を加える。
「ナニ!?」
動揺しているノーバディに容赦なくキーブレードで斬りつけた。よけられなかったノーバディは避けられずに切られ、消えた。そして同時にもう一匹のノーバディにキーブレードで突き刺した。
―結構俺も強くなってるな。ソラ達の方も終わったようだな―
有樹が言ったように、丁度ソラが最後のノーバディを倒した所だった。一同は一息付き、一箇所に集まった。
―有樹。大丈夫か?―
―ああ、大丈夫だよ―
―しかし、今回のは嫌に弱かったな―
「弱くて当然だ、さっきのは小手調べだからな」
急に有樹達に声が掛かる。その声に反応し、全員が声の方に振り返る。その声の主は俊であった。皆は一斉に戦闘態勢を取り、目の前の俊、ケイ、レツ、ロウを睨みつけた。
―俊!止めろ!俺達が戦う理由は無い筈だ!―
「ふん、何を今更。それに俺はここの町の音を奪った奴の仲間だ。お前にとってそれで十分だろう?」
その言葉に有樹は驚愕する。まさか友達がそんな事をする筈が無いと思ったからだろう。しかし彼が行った事は正しいと分かった。俊の声も普通に聞こえるからだ。しかしそれでも有樹は納得は出来てはいなかったが。
―お前がハルバードの仲間だと?―
「そうさ、そして俺はお前らを殺しに来たんだよ。それに既に先手は取っている。有樹、動けるか?」
―何?……動けない?―
そう有樹の体はピクリとも動かなかくなっていた。
―何だと!?お前有樹に何をした!―
「ククク。簡単さ、バインドというノーバディが有樹の影を縛っているだけだ」
有樹の影を見ると、有樹とは違う影が有樹の影を捕まえていた。それだけで有樹が動けなくなったのは良く分からないが、そのノーバディの能力なのだろう。
「お前はそこで見ていろ。仲間が一人やられるざまをな。やれ!」
俊がそう言った瞬間ケイがソラに、レツがアンセムに、ロウがリクの所に向かった。俊はそこから動かず見ているだけだ。
「またあったね、ウニ」
―またお前か、カイリ!離れて!―
―うっ、うん―
余り納得は出来て無い顔だったが、ソラの言葉もまた的を射ているので、しょうがなさそうに離れる。
―行くぞ!―
「来い!」
ソラはキーブレードでケイは前と同じようにナイフで戦っている。キーブレードを振りかざし、一気に振り下ろす。寸分の狂いも無く、当たるかと思われたが、ケイはその小さなナイフで止める。攻撃の手を休めずに上から、下から、右から、左から、はたまた突きで。しかしその全てが小さなナイフで受け止められる。
「甘い、甘い」
心底楽しそうな声でソラを逆撫でする。
「まだまだだね♪もっと努力した方がいいよ♪」
―言ってろ!喰らえ!―
次の瞬間、ソラの体が光り、ケイに向けて連続してキーブレードが振られる。今度こそ当たったかと思われたが、その殆どが受け止められ、当たった数はほんの二、三回。その上傷は殆どついていなかった。
「痛いな。でもそんなんじゃ僕を倒せないよ。だから努力した方が良いって言ったんだけどね、もういいや、所詮他人と馴れ合っている奴は強くなれないさ。だから、死ねよ」
その事ばと共にケイの体が光り、して小さいナイフを振り回す。それはソラが先ほど使ったラストアルカナムに酷似、いや、そのものだった。そしてその全ての攻撃をソラは受け止められずに全て喰らった。服はボロボロになり、その所所から血が流れる。痛みからか、ソラはキーブレードを落とし、膝をついた。
「どう?驚いた?僕は他人の技をラーニング出来るんだ。まあ余りに強すぎたりする技とか、魔法とかは無理だけど。君みたいに甘い生き方をしていた奴には出来無い芸当だよ。さて、何か呆気なかったし、気にくわないし。命令に逆らうけど、さっさと死ね」
先ほどの陽気な表情はどこへ行ったのか、冷めためでソラを見つめ、ナイフを振り上げ、すぐに振り下ろした。しかしどこからか、ケイの方へ炎の弾が向かってくる。それをバックステップで避け、炎が飛んで来た方を振り向く。そこにはカイリがいて、持っている杖をケイの方へ向けていた。
カイリはそのままソラの側まで行き、ソラに杖を翳した。その瞬間、彼の体に緑色の淡い光りが包み、彼の傷が治っていく。助かりはしたが、ソラは少し戸惑い気味にカイリを見る。
―カイリ、なんでここに来たんだ―
「そうだよ。ここに来なければ死ななかったのに」
何時の間にかカイリの背後に回っていたケイがナイフを振り下ろす。しかしソラがカイリを引き寄せ、ナイフを受け止める。
―カイリ早く離れろ―
―嫌だよ、私はもう守られているだけなのは、もう嫌だから。今度は私も戦う―
声は小さいが、その言葉にははっきりと覚悟した事が伺える。そして言い切った瞬間、カイリの手に光が集まり、手にはキーブレードが納まっていた。
「目覚めたか、十三機関の力!」
―……分かった、カイリ、一緒に戦おう!―
―うん!―
カイリの返事を待たずにソラの体が光り、先ほどと同じように連続で攻撃する。
「そんなもの!」
ケイの体も同じように光る。そしてナイフとキーブレードの激しい攻防が繰り広げられる。多少ケイの方が押している感じだが、先ほどとは違い、今はカイリがいた。
突然、ケイがナイフから手を離し耳を抑えた。ソラには何が起こったか分からなかったが、恐らくはカイリがやったのだろうと言う事は分かった。その場に他の人は見当たらなかったからという事もあるが、カイリが何かをしているのが見えたからだ。
ここぞとばかりにソラは連続でキーブレードを叩き込む。耳を抑えていたケイにはその攻撃が防げずに全て当たる事になった。
「まだ……まだだ」
―もう無理だろ、止めとけ―
「五月蠅い、お前なんかに負ける訳は無い。お前なんか、甘い考えで生きていた奴に!」
そう言うなり、ケイの体が変わっていく。体中の毛が伸び、顔の形が変わっていき、足と手の爪が鋭くなっていく。その姿はオオカミの様だった。言うなれ人狼と言ったところだろう。
―これは―
「これが、僕の真の姿だ」
そう言った後にはソラの目の前からケイは姿を消していた。そして現れた時にはソラの目の前にいた。辛うじて鋭い爪を受け止めるが、正に紙一重と言ったところだろう。
「喰らえ!」
突如、ケイの牙が通常よりも大きくなり、その牙でソラ達を襲う。牙はソラの腹部を捉え、脇腹に突き刺さる。
その攻撃にソラは痛みで叫んだ。そのソラから離れ、ケイはソラを蹴り飛ばす。そして次にカイリを爪で引っ掻き、どうようにソラと同じ場所へ蹴り飛ばした。
「これで終わりだよ」
静かにそう言い、爪を突き立て、ソラとカイリの心臓部分を狙う。しかしカイリが急にキーブレードを突き出した。そして凄まじい音と共にケイの体が吹き飛ぶ。恐らくは音の力、ケイはそう判断した。いくらなんでもここまでの威力は出ないと思ったが、音の十三機関はそれすらも操ることが出来た。
ケイが壁に叩きつけられ、苦しそうに身を悶えさせる。その間にソラとカイリは多少だが回復していた。
「く、そ。僕は、負けない。全ての、全ての人間を殺すまで……は」
―何故、何故お前は人間を殺そうとする―
ケイの必死の表情を見て、そう質問した。
「なぜ、だと?それは、僕を闇に追い込んだ人間に復讐するためだ!」
―復讐?一体あなたになにがあったの?―
「……僕はこの通り人狼だ、それを僕の村人、あまつさえは家族さえも僕を化け物とみなして迫害したんだ!だから僕は人間を許さない!そしてこんな僕を拾ってくれたのがアンセム様だ。だから僕はあの方に忠誠を誓い人間に復讐するんだ!」
―……それは間違ってるよ―
カイリは、静かに、ゆっくりと、また確信を込めて言った。その言葉にケイは露骨に怒りを表し、牙を剥く。
―お前は村人に何かしたか?―
カイリの言葉を引き継ぐようにソラが言った。
「してない!何もしてないのにあいつらは!」
―何もしないからいけないんだ―
「何だと?」
―嫌われたく無いなら何か好かれる様な行動をすれば良かったんだ!復讐なんてしても、もっと嫌われるだけだ!―
「五月蠅い!何も知らないくせに!」
―そうだ!俺はお前の事何か分からない!けど何をして欲しいかぐらい分かる!―
「分かる筈無い!お前なんかに!」
―お前は大切な物が無いからそんな事を言えるんだ!お前はアンセムに何を貰った!?闇の力と復讐する力だけだろう!?そんなんじゃただ虚しさが残るだけだ!―
「じゃあ!どうすれば良いって言うんだよ!」
気づけばソラも声を張り上げていた。それに気づき、一息ついて、間を置く。
―俺達と一緒に来い―
「何?」
―俺達と一緒に来い。そうすればお前にも大切な物が出来る。命を賭けても守りたい大切な物を―
「行ける筈無いだろう。僕は人狼だ。それにもう、戻れない!」
そう言ってケイは鋭い爪を振りかざし向かって来た。
―戻れるさ。何時だって、その覚悟さえあれば。これが、最後だ!―
キーブレードを振り翳し、一気にケイとの距離を詰める。
振り下ろされるキーブレードと爪。その二つがぶつかり、そして、爪が折れた。そのままケイはキーブレードで切られた、かと思われたが、寸前でソラが止めていた。
「……強いな。甘い考えで生きている奴に負けるとは思わなかった」
―その甘いの基準は分からないけど、俺はその甘い考えがあったから勝てたんだよ―
「意味分かんねぇ。少しは、分かる気がするけど、もう遅い、僕は負けた。さっさと殺してくれ」
溜息をつき、その場に座り込むケイ。そのケイに、ソラは手を差し伸べる。
―……さっきも言っただろ?俺達と一緒に来い―
「良いのか?こんな奴でも」
―ああ。来い!誰が反対しても俺がお前を守ってやる!―
その台詞に多少赤らむが、ソラの手を掴む。
「……ありが…」
「使えない奴だな」
ケイの言葉は最後まで言われる事は無かった。ケイは血を噴出し、その血がソラにかかる。ソラが呆けたまま、ケイの全身を見下ろしていく。そして、ケイの腹部には剣が突き刺さっている。刺したのは俊だった。
「俊……様?」
「雑魚が、もうお前は要らない。じゃあな」
その言葉と共にケイは剣に血を吸われ。干からび、死んだ。それは一瞬の事で、痛みを感じたかすら分からないだろう。
―お前。一体、一体何をしたか分かってんのか!―
「五月蠅いな。分かってるよ。ゴミを一匹処理しただけだ」
まるで蚊でも潰したような表情。その時点でソラを嘲笑っているのが分かる。
―お前!―
「ふん、死なない程度にやってやるよ。」
―ふざけるな!―
ソラの体が光る。ケイにやった時よりも早く、そして力強く打ち込む。しかし、俊は全てをかわし、ソラを嘲笑しながら見据える。
「そんな技でやられるか。芸の無い奴め」
―私もいるのよ!―
余裕を見せる俊。しかしカイリの存在を忘れている為カイリの攻撃に対し、反応が遅れ、俊の動きが遅くなった。一瞬驚愕の表情をみせる。しかし体が思うように動かず、ソラが何かをしているのは見えた。それは先ほどと同じ攻撃だが、俊に避ける事は出来なかった。
しかし、全て当たったにも関わらず、俊は余裕の表情をしている。
「この程度か」
ソラが驚愕しているのを良い事に、俊はヴァンパイアブレードでソラを切り捨てる。その後、カイリを狙い、近づく。
―クッ!カイリ!―
「バインドに捕まっている今お前は何も出来ない。何をしようとしても無駄だ。そこで大人しくしてろ」
―カイリ!逃げろ!―
叫び、カイリもその言葉に反応したのは良いが、俊の方が早かった。カイリもソラと同じように切られ、地面に横たわる。生きてはいるが、その顔は苦しそうにしている。
「弱いな。お前の仲間は」
―俊。お前は―
友達が今の仲間を切る。複雑な思いだが、俊を許せないと思い初めていた。
―俊・・・・・君はそんな事を望んではいない筈だ。お願いだ。止めるんだ。・・・この願い・・・届いて・・・・・―
続く