俊は見知らぬ城の中にいる。先ほど闇に覆われてここに来たらしい。この城は見れば見るほど不気味に思えて来る。周りを見るとまず眼に入る物は、人か恐怖で叫んでいるような絵、殺されている絵、拷問されている絵、処刑されている絵等の趣味が悪い絵ばかりであった。しかし俊はそんなことなど全く気にしていない。寧ろ居心地がよさそうだった。次に天井を見てみると、天井には棘のような何かがある。針にしてはデカすぎる。剣又は槍みたいな物であろう。そこをもっとよく見ると、人や動物、あまつさえは怪物などが突き刺さっている。床が赤いのはそれらの血の為だろう。最後に目の前を見てみると、一人の黒いマントを羽織った男がいる。俊が気付いた様なので、男は口を開いた。
「ようこそ、シンフルキャッスルへ」
シンフルキャッスル、罪深き城。まさにこの城の内部を見るとその名の通りの様な気がする。しかし俊にはよく聞こえなかったらしく。
「ここは何処だ?」
と男に質問した。
「ここが何処だ?だと?さっき言っただろうシンフルキャッスルだよ」
男の声はとても落ち着きがある声だった、しかしその奥底には異様な感じがした。そして。
「その声・・さっき俺の頭に話しかけていた奴だな?」
「フフフ、その通りだよ、俊君」
「!なぜ俺の名前を知っている」
俊は驚きながらもそう言った。
「なぜって?それは君の事を調べたからだよ」
調べたと言ったが日本にはこんな城は存在しない。ならば、どうやって調べたというのだろうか。答えは男にとって簡単である。実はこの男は闇の力を持つ素質がある物の負の感情に敏感に反応する。そして俊の負の感情を受けた時この男の頭に俊の情報が入って来るのであった。
「調べた?まあいい。それよりお前は誰だ?そしてなぜ俺をここに呼んだ?」
「ふむ、順に答えよう。まず私の名はカオス。まあ本名じゃないがね。そしてもう一つの質問だが、私は、仲間を捜していた。そしてあらかた集まったのでついに闇の世界にする計画を実行するために動き出したのだ。そしてまず手始めに君の世界、地球を破壊しようと思ったら君という2つの負の感情を持った貴重な仲間を見つけたのでここに連れて来たのだよ。さて、ついでに今聞こう。君は我らの仲間になる気はあるか?」
ここまでの話を男、カオスは淡々と語った。その顔に余り感情は見られない。
「仲間になれだと?それはできない」
「できない?なぜだ?お前は先ほどあれほど憎いと言っていたのに」
「あの世界などどうでも良い、ただ・・・・」
「有樹君の事かな?」
正直俊は驚いた。なぜ有樹の事を知っているのか。そして今考えていたことをこうも簡単に当てられたからだ。しかしこれも先ほど言った様に、ただ単に俊の情報を限りなく持っているからだ。誠に恐ろしい男だ。
「なぜ分かった?」
「それは君の心の中に少し光りがありそれが有樹君だからだよ。それから光一君もね」
「俺の中の光?」
俊は、訳が分からなくなってきた。世界を滅ぼすと言ったこと、闇の世界にすると言うこと、そして有樹と光一が自分の光だと言うこと。
「そうだ、だが君は勘違いしている。有樹君は君の事を君が思っているほど気にしてはいない。その証拠にこれを見たまえ」
カオスがそういうと上の方に闇のスクリーンらしき物が出てきた。そしてその中に写ったものは。
「有樹!」
であった。しかしそれはただの映像だった。そしてカオスはまた口を開いた。
「見たまえ!あの表情を!君の事など全然気にしてないような表情ではないか!」
そこには、有樹の満面の笑顔で他の友達と話している有樹の姿があった。
「違う!どうせこれは以前撮った物なんだろう!?有樹は、常に俺の心配をしてくれた!俺が人を殺した時も!」
俊は叫んだ、余りに簡単な罠だと心の底では分かっていながらカオスの言葉に動揺されて心が揺れているのだ。そして信頼していた親友に裏切られたと思いたくなかったからかれは叫んだ。しかし。闇に染まった彼には疑う心が信じる心より勝ってしまっている。カオスはそこを攻め続ける。
「いつまで眼を背けるつもりだ?あれを見たまえ!楽しそうな有樹君の後ろの方で孤独に座っている君を!」
たしかに後ろの方で俊は、座っていた。しかし実際笑っているのは俊を心配させたくないという有樹なりの心配りだったのだ。が、それをカオスは、逆手にとり俊の負の感情を上げようとする策だった。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だーーー!!!お前の言う事なんか信じるもんか!!俺は、有樹を・・・信じる!」
俊は、そう言ったが少し自信がなさそうだ。もう既にカオスの攻めの効果は現れていた。
「まだ言うか。それなら今度はあれを見たまえ!」
スクリーンの画面が変わった。下校の時だろう。
「どうだ、いつも一緒に帰っているのに君が人を殺した次の日には君ではなく、別の友人と帰っているではないか!」
カオスの声が段々大きくなって行く。そして俊に返答させる暇を与えず続けた。
「まだあるぞ。この今写っているのは君の嫌いな愚か者共だ!そして奴等の前を見て見ろ!有樹君が楽しそうに喋っているのが君には見えないのか!?」
これも実は闇の力をつかい、俊に幻を見せているだけだった。有樹の目の前にいるのは、俊の嫌いな奴では無くただの友達だ。そして・・・
「嘘……だったのか?……俺を……信頼しているという……言葉も、いつも……いつもくじけそうになったとき励まそうとしてくれた言葉も!奴の、奴の全てが嘘だったのか!?」
そして俊は、カオスの策に見事はまった。
「そうだ!これが真実だ!嘘ではない!さあ!これが最後の勧誘だ!君は我らの仲間になるか!?」
俊は数秒考えた後ついに・・・・・・言った。
「・・・・なる」
そう言ったときのカオスの表情はとても愉快そうだった。
「なってやるよ!そのかわり条件がある!」
「なんだね?」
「俺の闇の力をもっと増やせ。それから地球と有樹の処分は・・・俺がする!」
「フフフ、いいだろう。さて最初の条件だが、それは私が与えた闇の力でそれ以上は上がらない。だが君自身の闇に対する心を開ければ」
そう言ったあとカオスは、鍵のような剣をだした。
「?・・・なんだ?それは?」
「フフフ、この剣は私がキーブレードを真似て作った物だ。キーブレードが扉を閉じるのならば。この剣は人の闇の扉を開く鍵だ。これをお前に刺すことでお前の闇の力は増幅する。フフ、覚悟ができたら私の近くに来い」
俊は迷いも無くカオスに近づいて行った。
「覚悟は出来ている様だね?」
「ああ」
「では!」
カオスが剣を構えて俊に突き刺すと同時に鈍い音が響く。しかしこの部屋には誰も気にする者はいなかった。
「ぐ!」
微かな呻きが部屋に広がった。しかし俊の体からは血が出て来ない。代わりに闇が溢れ始めた。どんどん出て来る闇はカオスまでも包み込んだ。
「ほう、凄まじい闇の力だ。さてこれでいいはずだ。よし、これから我らの事を話そう。その後地球に行ってもらうが、いいかね?」
「ああ。・・・・待っていろ有樹・・・・お前は、必ず殺してやる!」
俊はこの瞬間完全に闇に染まってしまった。
親友と戦うこと、それが一番辛い事だというのに。
続く