トラヴァースタウンの宿屋の一室、リクとカイリはここに寝ていた。

「う、ここは?」
「あっ!気が付いた!?」

耳に付く様な騒がしい声が聞こえたと同時に女性が現れた。

「あんたは・・・・たしかユフェだったか?」
「ユフェじゃない!ユフィよ!」

そうユフィである。2年前ソラの仲間だったあのユフィである。あれから少しも変わった様子が無い。

「っていうかなんであんたがあたしの事知ってんの?」
「ソラに薄着で五月蠅くて男勝りなのがユフィって教えてもらったから。それに一度見たことあるからな。」
(ソラ、そんなことを言ってたのか。後でしめてやる)

ユフィはそんな黒い事を考えていた。周りから見れば異様なオーラが見えるだろう。

「で、あんたは?隣にいるカイリとソラは知ってるけど」
「俺はリク、カイリとソラの親友だ」
「ん、あれ?ユフィさん?」
「あ、カイリ起きた?」
「え?あっはい、あれ?ここは?」

カイリには、まだ状況判断が出来てないようだ。周りを見渡すがまだボーっとして目線は定かでは無い。

「ここはトラヴァースタウンだよ」
「え?トラヴァースタウンなの?じゃあレオンさんとエアリスさんとシドさんは?」
「えっとね。レオンは今三番街を見回ってるよ。エアリスはクラウドと一緒に1番街に行ってる。でシドは今グミシップの調整中」

レオン・エアリス・シドとはユフィ同様2年前ソラを全面的にバックアップしていた人物である。そしてクラウドとは、オリンポスコロシアムでソラと戦った人物だ。

「クラウド?」
「あ!そっか!クラウドの事は知らないんだっけ。クラウドっていうのは……

「俺だ」

ユフィが何か言う前に金髪のつんつん頭の青年が答えた、クラウドだ、後ろにはエアリスがいる。

「あ!クラウド、エアリス、お帰り!」
「ただいまユフィ。リクにカイリも目覚めたのね。後は、ソラね」
「そうだ!ソラ!」
「しまった。忘れてた」

忘れるなと言いたくなるような台詞だ。先ほどまで自分の命を賭けてまで守って貰ったのに。しかもリクに至っては先ほどソラの事を声に出していたのに。

「あ、そういえば真っ黒のコートを着てる男がいなかった?」

リクが思い出したように言った。それよりソラはいいのだろうか。しかしユフィ達もそんな事は気にせずに口を開く。

「あーあの男?あいつなら何か2番街を回ってくるって言ってたよ。それより誰なのあいつ?」
「分からない。島が滅びる前に現れて・・・そうだあいつ俺を闇の扉に蹴り入れたんだ」

リクがあの時の事を思いだし、また怒りがこみ上げて来たらしい。命の恩人という事は二の次なのが気になるが。

「起きたか」

声が聞こえた方を向くとレオンとコートの男が立っていた。
「ふう、やっと起きたか」

コートの男が随分待ったようなため息をつく。その行動はリクの逆燐に触れた。

「起きたか じゃねーよ!お前は一体誰なんだ!?」

リクが怒鳴りながら動くがコートの男は全く動じずにその場で立ったままである。

「私が誰だって?それはソラを起こしてから言おう」
「え、でも今ソラは安静にしてたほうがいいん」

カイリの声が止まった。見るとコートの男がどこから取り出したのか。巨大なハンマーを持っている。そのまま振りあげ気合を入れる。

「問答無用!今までの恨みと感謝を込めて、喰らえ!」

「痛てぇ!」

凄まじい地響きと共に痛々しい叫び声が聞こえた。痛いですむのかという事もあるが、長年鍛えていたのでそれだけで済んだのだろう。恐らく。

「痛てぇ!痛てぇよ!」
黙れ
ソラは直ぐに沈黙した。何故ならコートの男はまだハンマーを構えているからだ。その様を皆は呆然と見ていた。いや呆然と見るしか無いだろう。ここにいないシドまで音だけで驚いたのだから。


「よし起きたな。では、話しを始めよう」
「ちょっと待て!」
「なんだ?」
「お前は誰だ!?」
「それを今から話そうとしているのだよ」
「なんだ」

それだけで済むのか不明だが、そんな事は気にせずにコート男は口を開き、説明を始める。

「まず私の名だが」

コートの男がそこで言葉を途切り、そしてまた口を開いた。

「私の名は、アンセム」

コートの男はそう言いながらフードを脱いだ。紛れもなくアンセムだ。それを確認したソラ達はとっさに光からキーブレードを取り出し、構える。

「待て待て。私は確かにアンセムだがアンセムではない」

ソラ達には意味が分からなかった。アンセムだがアンセムではない。じゃあ前にいるお前は誰だ?そんな顔をしている。

「私は、そうだな。単純に言えば過去の、賢者と呼ばれていたころのアンセムだな。ソラ、お前に倒された後私は、キングダムハーツによって分離したのだ丁度、光の心、闇の心と言った具合に。そして今光の心が強かった私のほうが肉体に入ってる訳だ」

過去のアンセム?闇の心と光の心の分離?皆よく分からないような顔をしている。そして今度はリクが口を開く。

「光の心を持ったアンセムだと?じゃあ俺達が通った闇の扉は何なんだ」
「確かに私は光のアンセムだと言ったが別に闇の力が使えないとは言っていない。それに闇が必ずしも悪と言う訳はない。一体誰が闇を悪と決め、光を正義と言った?私には見分けがつかない。そして私は両方共正義も悪もあると思っている。それに闇の力はリク、お前も使えるだろう」

皆が一斉にリクを見た。リクと言えば驚いた顔でアンセムを見ている。

「お前、なぜそれを?」
「一応お前が闇の十三機関ということを確認したからな」
「十三機関、前も聞こえたがいったい何の事なんだ?」

アンセムはそれを聞き、ふう、とため息を漏らした。

「いいか?一度しか言わないからよく聞け。十三機関とは、この世界の秩序を守る物達の事だ。例えばいつも暑い星、つまりお前達が居たような星だ。で、そこに急に大寒波が訪れようとしたときその星はいつも暑かったので耐えられる訳がない。ここで登場するのが炎の十三機関だ。もしそうなった場合炎の十三機関はその大寒波を先に対処しなければいけない。それから今までは緑で覆い尽くされた星があったとする。その星の緑が急に無くなり始めたら、その時は土の十三機関の出番だ。その場合土の十三機関は、元の緑で覆い尽くされた星に直さなければいけない。つまり先ほども言った通り、彼等はそれぞれの星の秩序を守らないと言うことだ。因みに十三機関の能力は光、闇、水、氷、風、炎、土、雷、生、死、音そして時間。もう一つはまだ分かっていない。そして訳2000年前から安定してきたので彼等の力がいらなくなり彼らは深い眠りにつこうと思ったが、何時自分たちより強い何かが現れるか分からないため。彼らは心が強い人に転生していった。そして選ばれたのがリク、お前だ」

アンセムは長々と語った。もうソラはすでに半眼状態だったがアンセムがハンマーを出すと急に背筋を伸ばす。リクはそれを無視し質問した。

「俺にその十三機関の力が?」
「そうだ、しかし今まで転生してもこの2000年と言う長い年月の中、一度たりとも十三機関の力は何も目覚めなかった。私が闇の世界にしようとしていた時もな。そして今、全ての十三機関の力を持つ物が覚醒しようとしている。これが何を意味するか分かるか?」
「・・・・どこかの世界の秩序が乱されようとしているのか?」

リクではなく、隣で無言で佇んでいたレオンが答えた。

「半分正解で半分ハズレだ。レオンよ。どこかの世界ではない・・・・全世界だ。しかも闇が増えただけなら光の十三機関だけでもなんとかなる、が今回は侵略という最もたちが悪いパターンだ」
「ふう、つまり俺はその闇を倒さないといけない訳か」

リクがため息混じりに答えた。

「そうだが、お前だけじゃ勝てない。だから他の十三機関も捜さなくてはいけないのだ」
「……ところで十三機関ってどうやったら分かるの?」

数秒を置き、カイリが聞いた。アンセムはすかさず口を開く。

「知らん」

暫し沈黙。その一言で誰も喋らなくなった。しかし痺れを切らしたのかソラが怒鳴る。

「知らんって何だよ!肝心な情報持って無いんじゃ話しになんねえじゃねえか!」
「仕方ないであろう。知らない物は知らない。だが言えることは、早く十三機関はそろわないと手遅れになると言うことだけだ」
「役立たず。それよりこれからどうする?」

最初の言葉にアンセムが一歩動くがリクに制される。

「その前にノーバディの事を簡単に教えてやる。ノーバディとは心があるハートレスだ。そして心があるからこそ考えたりチームプレーが出来るようになるから以前より強いのだ」
「ハートレスに心?」
「そうだ。ハートレスには心は存在しない。しかし実際心があるハートレスだからノーバディつまり存在しない物というわけだ。一応言っておくが、作ったのはカオスという輩だ」
「ああ、それは知ってる。でもどうやって心を入れたんだ?」
「憶測だが、人間の心を取り出す術をカオスは持っていて、そしてその後ハートレスに心を注入しているのだろう。そしてノーバディはゴキブリのごとく繁殖していったのだと私は思っている」
「なんで繁殖するの?」
「知らん。多分誰にも分からない」
「ふ〜〜ん。まあいいや。それでさっきの質問だけど、何処に行く?」
「それなんだが、今一番危険な星は、地球という星なのだ。だからその星に十三機関がいたら困るのでそこへ行ったらどうだ?」
「ふ〜ん、じゃあそうしよっか」

後先考えないで決定するのはソラらしいと言えばソラらしい。が、それを否定する声は上がらなかった。

「ならば一刻を要するからまたこの闇の扉を通って行くぞ」


そう言うが早いか。アンセムの後ろに闇の扉が現れた。余り力を要さないのか、別段疲れた表情は無い。

「よっしゃ、じゃあ行くか!リク!カイリ!それから、レオン達はどうする?」
「悪いが俺たちは、行けない。ここを守らないといけないからな」
「・・・・そうですか。・・・・ではそっちも頑張ってくださいね」

少し残念そうだが、カイリはレオン達に激励の言葉を贈る。

「ああ。そっちも気をつけろよ」

四人を代表してレオンもソラ達に激励の言葉を贈った。

「ああ。必ず帰ってくるよ。・・・じゃあ行こう!」
「あ!ちょっと待って!」

ソラ達が扉に入ろうとしたらエアリスに止められた。

「何?エアリス」
「ちょっとそこで待ってて」
そう言うとエアリスは外に出て行ってしまった。そして10分後に慌しく戻って来た。

「お待たせ!」

エアリスが戻って来た。手に杖を持って。

「カイリ、これを持って行くと良いわ」
「これは?」
「それはマーベルロッドというらしいの。以前王様がくれた物なの。何か不思議な力があるらしいのだけど。まだ分かってないわ」
「王様がくれたのか!?」
「そうよ、これは王様がいずれ必要になるかもしれないと言って私たちに譲ってくれた物なの、それでカイリ、あなたには魔法が使えると思うの。だからこれを持っていけば役に立つと思って」
「へー。ありがとうエアリスさん!」
「もう余り時間が無い、行くぞ」

こうしてソラ、リク、カイリそしてアンセムが地球に向けて旅立った。




丁度有樹が教室に入り俊と話している時だった。