俊が言った言葉に有樹は呆然としていた。しかし麗はそんな雰囲気に構わず、マイペースを貫き通している。

「消えろってどうやって?消しゴムで?」
「そうだ!ってそんなんで消えねぇよ!」

麗にツッコミを入れるが実際そんな事をしている場合ではない。それを気にしないというのは馬鹿なのか、それとも大物なのか。

「変わらないな。消えろっていうのは、死ねって事だ!」

俊が有樹の方に剣を構え、襲う。

夢なら覚めてくれ。有樹は先程とは打って変わって咄嗟にそう思ったがこれは紛れもなく現実だった。そして俊の剣が振り下ろされた瞬間眼を瞑る。

しかしいつまで経っても痛みは無く、代わりに何かがぶつかる金属音が有樹の耳に入った。何が起こったのか理解はしていないが、恐る恐る眼を開けるとそこには三人の男性と一人の女性がいた。有樹を守ったのは、鍵の形をした剣を持った茶色のツンツン頭の青年だった。

「大丈夫か?」

その中の一人の白髪の一番背が高い、アンセムが無事を確認する。

「え?あ?まあ」
「そうか、リクとりあえずこの二人だけが生き残ったらしい」
「そうか、・・・アンセムそいつらを頼む」

目の前の急展開に有樹はついて行けないが、把握出来た事はリクという名とアンセムという名の人物が自分を助けてくれたということだ。他の二人の名前は分かってはいないが、それはソラとカイリだ。

「ねえ。これって何かのショー?」
「違う」

すっとぼけた麗の質問には全員が突っ込む。それ程の余裕があるのか、それとも純粋に突っ込みたかっただけなのかは本人達にしか分からない。

「カイリ、その二人を避難させて」
「うん、分かったソラ」

ソラに言われ、カイリは一旦有樹と麗を安全な場所まで促す。二人はこの状況に付いていけないのでカイリの後に着いて行く他に無かった。

俊がすかさず有樹達の方へ向かって行くが、ソラ達に阻まれる。苦虫を噛み潰した顔をしながら静かに口を開く。

「邪魔を。ケイ、レツ、ロウ。こいつ等を殺せ」

俊がそう言うと教室に闇が現れ、その中から三人の男が現れた。

「OK〜」
「承知」
「………」

始めに一番小さく、見た目も少年のケイはナイフを持って、ソラを見て、構える。気むずかしそうな青年、レツは黒い槍を持ち、アンセムを冷めた表情で見据える。最後のロウは、どうやら年下に命令されるのが気に入らない様だ。が、俊の方が強く、更に階級か何かも上なのか、黙って剣を構えた。

「いくよ〜。そこのウニ」
「ウニじゃない!ソラだ!」
「知ってるよそんな事」
「じゃあウニって言うな!」

会話の内容はかなりふざけているが、ケイはソラの急所を確実に狙っている。リーチの短いナイフと小柄で身軽な体が成せる技か、細かい動きでソラを翻弄している。

「ふん、もう一人のアンセムか。……死んで貰うぞ」

レツは黒い槍をアンセムに振り下ろした。何も持っていないように見えたが、アンセムはどこからか白い槍を取り出し、応戦する。レツを槍で薙ぐが、紙一重でかわされる。

「む、結構できるな」

悠長な事を言っているが、狭い教室の中で不利となる槍を巧みに使うその様は強者ととれるだろう。

一方リクとロウは無言で戦っている。剣と剣を交え、構わず机等を両断し、競り合いに縺れ込む。

その間に有樹と麗はカイリに促されて逃げようとするが、俊は三人が動けない事を承知していたので真っ直ぐ三人の元へ走り寄る。

「逃がすか」

教室のドアの前に回りこまれ、逃げ場が無くなる。そして俊はまた剣を振り上げ直ぐに振り下ろす。が。

「死ね!」
「させない!」

カイリが有樹と麗の前に守るようにして立った。しかし。

「どけ!」

その一言と共に剣で杖を弾き、腹部に回し蹴りを入れ、壁に叩きつける。叩きつけられたカイリは苦しそうにうめくが、俊が既に有樹を捉えていたので有樹にはカイリに気を配る事は出来なかった。それどころか自分の事にさえ気を配れなくなっている。余りの状況変化の早さに。

「死ね」

今度こそ有樹は駄目かと思ったが、またもや痛みはいつまで経ってもこなかった。俊を見ると、頭を抱えてうめいている。

「クゥ。頭が。何故体が動かない」

俊に異常が起こっているのは目に見えているが、一体有樹には何が起こっているのか分からなかった。今彼に出来る事を頭の中で整理すると、それは説得、又は逃げる。二択の内、有樹は前者を選んだ。

「俊、なぜ俺を殺そうとする!」
「五月蠅い!今更なにを言う!裏切り物が!」

裏切り者。その言葉を向けられる事は身に覚えは無いが、有樹は一つ思い当たる事があったのか、少し驚いた表情になる。

「俊!お前、まだ俺がお前のプリンを盗った事を怒っているのか!?」
「違うでしょ。きっと有樹がこの前消しゴムを貸さなかったせいだよ」

明らかに違うが今のこの状況で二人に突っ込める人物はどこにもいなかった。恐らくこの様に能天気でいられるのは俊が動けないというゆとりがあるからだろう。

「五月蠅い!有樹を殺せないなら!麗!先におまえを殺してやる!」

有樹から目を離し、麗を見、攻撃しようとする俊。有樹は咄嗟に危険だと判断し、麗を助けようとするが、間に合う距離では無かった。冷や汗が流れる中、有樹の周りに風が吹く。

有樹が気が付いた時には麗と俊の間に入り込み、俊の剣を、鍵の形をした剣、キーブレードで受け止めた。勿論有樹には自分が持っている物は何なのかは理解していないが。

「クッ。目覚めたか、十三機関の力に」

十三機関という単語に有樹は反応したが、それが何なのかは分からなかった。しかし言動から自分が持っている剣と関係があるのだろうと決め付け、キーブレードを構え、俊に突進する。

「喰らえ!」
「なっ!早い!」

俊の言うと通り、有樹は一瞬にして俊を五回も斬りつけた。が、俊を見てもかすり傷一つついていなかった。その事に俊はニタリと笑い、同様に有樹を攻撃するが、同じように傷一つ付く事は無かった。

「クソ。これでは何もできない。仕方ない。帰るぞ。後はノーバディ共に任せておけ」

俊の言葉に三人は頷き、全員闇の中へと消えた。有樹は、あれでも一応緊張していたらしく、その場に座り込んだ。
疑問が幾つも残る中、アンセムが有樹に近づき、キーブレードに反応を示した。

「お前それは……そうか、お前も十三機関か」

有樹には十三機関というのは分からないが、キーブレードを見て何かを判断しようとする。しかしキーブレードを見たところで分かる筈は無かった。

「あのさ……十三機関って、何?」
「体の中にあるやつ?」
「そりゃ器官だ」

有樹と麗の漫才じみた対応に皆呆れているた。当然と言えば当然だが。

「ふう、詳しい事は後で話す。とりあえずここは危険だ。いったんトラヴァースタウンに戻るか」
「ここが危険?なんで?トラヴァースタウンって何処?」

そう有樹が聞いた時だ、突然地響きが起こり、揺れは時間が経つにつれ大きくなっていく。

「時間がない!ここに入れ!」

アンセムの後ろに黒い扉が現れる。何処となく不気味な感じがするせいか、有樹は入るのを躊躇ったがアンセムに怒鳴られて渋々入ることになった。





―俊、有樹、僕は何時までも君たちを見守っているからね。どん事になっていても―