有樹達は今、トラヴァースタウンの宿屋の一室に居る。そしてアンセムの説明を聞いて四日が経とうとしていた。その内容には有樹には理解しがたい事柄がありすぎて、パンクしそうだったが、なんとか理解することが出来た。麗に至っては、数秒で理解していた。状況を把握するのが早いと言うべきか、能天気に考えているのかは本人のみぞ知る。
とりあえず有樹が分かったことは、自分が風の十三機関という事と、先のトラブルで持ってた鍵の形をした剣がキーブレードという言う名前と言う事、因みに彼のキーブレードの名前は“ジェントルウインド”、リクのキーブレードは“デスクライシス”、そしてソラのが以前から使っている“過ぎ去りし思い出”ということだ。ソラはなぜキーブレードを持っているのに十三機関の力に目覚めて無いのかは不明だ。
それからもう既に地球は滅びたと言うこと。流石にこれには一番ショックを受けたようだ。麗もこれには驚いていたと有樹は思ったが麗は、驚くどころか、瞬時に理解していた。親や友人達が死んだ事に対してショックがあるのか無いのかは、やはり本人呑みぞ知る。
そして俊が有樹達の敵という可能性が高いということ。後は、もう一人の、闇のアンセムがこの全世界を滅ぼそうとしている張本人だと言う事。因みにここに居るのは光側のアンセムだ。余りに信じ難い事を理解する量に思わず有樹は頭を抱えた。
とりあえず大雑把に言うと、今全世界が滅びようとしていると言う事だ。そのことを四日間、ソラ達と共に訓練している時も彼等全員分のご飯を作る時も有樹は考え続けていた。流石に料理を作っている時は何故自分が、と考えているようだが。
「有樹、大丈夫?」
と優しく声を掛けてくれたのはソラだ。
「まだ駄目」
と、ソラの問いに即答する。
「情けないな、麗は全然大丈夫だぞ」
リクがそう言ったが有樹と言えば文句の一つでも言いたそうな顔をしている。
「まあそう言うな、リク」
アンセムがリクを嗜めるがリクも冗談で言ったらしく、涼しい顔で受け流した。そんな時。
「おーい!グミッシップの調整が終わったぞ!!」
外から五月蠅い声が聞こえた、シドである。グミッシップというのは宇宙船なのだが、世界の壁で出来ていると言う事意外は未だ分かっていない乗り物だ。グミシップと聞き、有樹は更にうめき出した。自分達がただの綺麗と思っていた星が他の世界と言う事が信じられていないようだ。
「お疲れさん」
「おう、有樹大丈夫か?」
「駄目」
先程と同じように即答する。そしてシドは満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ頑張れ!」
その一言で済まされ、シドは何処かへ言ってしまった。更に脱力感を感じる有樹だったが何とか立ち上がり、何かを思い出す。
何かというのは麗達、女性陣が今トラヴァースタウンを回っていると言う事だ。麗は彼女等に新しく杖を貰い、練習をしている。貰った杖のなはフラグメントロッド。カイリが持っていた杖が分裂したらしく実際二つになっている時の方が強いらしいので分けたが、何故分裂したりするのかは分かってはいない。因みにカイリの杖はショーテイジロッドと言うらしい。
「とりあえず俺は麗達を呼びに行ってくるよ」
ため息混じりに皆に言い外に出る。リクとアンセムはそろって頷いたのが最後に見えた。椅子に座っていてやる気がなさそうに見えなくは無いが考えない事にして有樹は外を出歩く。
暫く歩いていると麗達を発見する。彼女達も有樹を見つけたようで手を振っているが、突如、麗が杖を有樹に向ける。何事かと思った有樹だが、次の瞬間麗の杖の先から炎の弾が現れ、有樹に近づいてくる。咄嗟に有樹は光からキーブレードを取り出し、炎の弾を上に弾く。
「頼む、危ないから止めてくれ」
彼女達の元へ辿り着いた第一声がこれだった。実際辿り着くまで麗が覚えたらしい魔法を有樹に放ち、有樹が防ぐと言う無意味な行動をしていた。麗は特に悪気は無かったようで、素直に謝った。
「はあ、皆もうそろそろ行くから戻って」
「分かった。じゃ、行きましょ」
エアリスが皆を促し、有樹達はいったん宿屋に戻った。
宿屋に入った途端、有機は思わず顔を逸らした。麗までもが冷や汗を流して二人を見ている。
「ソラ、リク、二人ともなにやってんのさ?」
「勝負」
「いや、勝負って。空気椅子の?」
二人はそろって空気椅子をやっていた。足が震えている。一体いつからやっているのだろうか。それよりもこのような行動をすること自体が有樹には無駄に思えた。
「そうだ。俺達はもう支度が終わっている。お前達の支度が終わるまでやっているつもりだ」
「今度こそ負けねえからな」
「それは俺の台詞だ」
余りに無駄な行動に麗が笑っているだけで全員が絶句していた。
数分後、有樹達はの用意は終わらせ、ソラとリクの元へと行くが、未だに勝負は続いているようだった。確かに足を鍛えるのには良いかもしれないが、はっきり言えば無駄な行動である。
「ソラ、リク。支度終わったよ」
「くそ、また引き分けか」
「またって。いつもこんなことやってんの?」
「うん。前まではチャンバラだけだったんだけど。最近は大食いとか、そんな事でも勝負するようになっちゃたのよ。二人とも」
有樹の隣にいるカイリが溜息交じりに答えた。その表情は既に処置なしと無言で語っている。
グミシップ置き場に行くとシドが堂々と立っていた。そして右手で後ろを指し、良通る声で喋り始める。
「どうだ!これが新しい巨大グミシップ!アークだ!」
「……小さくない?」
有樹の最初の感想がそれだった。確かにこの人数で乗るには無理がある大きさだ。その感想を聞き、グミシップの側でシドがいじけてブツブツ言っている。何故金が無いかというと以前シドが賭博をしてほとんどすったらしい。そんな中。
「大きいね〜」
変に感動している麗がいた。別に大きいか大きくないかは個人差があるので有樹は何も言わなかったが、目の前のグミシップを大きいというのは理解が出来なかった。
そんな異様な疑問を抱きながらだが、彼等は星の大海へと旅立って行く
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「クソ!一体どういうことだ!」
思わず俊は苛立った声を出した。それも先の戦闘で有樹を殺そうとした時に動けなかった事に原因がある。
「おやおや、俊どうしたんだい?」
「カオスか・・・・どういう事だ?俺はなぜ有樹を殺せなかった?」
「ふむ、その事だがまだ君は有樹君の事を信じているのではないか?」
「あいつを俺が?そんなはずは無い!だが、どうやったら俺は殺せるようになるんだ?」
「それは君が心を殺せばいいのだ。心を完璧に闇に染まらせればいいのだよ。君なら簡単だろう。それからまだ有樹君も俊を信じている可能性がある。あったとしても少しだがな。だからようは自分の心を殺し、有樹君に恨まれる様な事をすればいいのだよ。さて、まだ君には力が足りないらしい。闇に染まれば恐れるもの等何も無い」
そう言った瞬間、俊の周りに闇が現れた。その様子はまるでマレフィセントがリクに闇の力を授ける時に酷似していた。
「……カオス、バインドを貸せ」
暫く思案に耽っていた俊は突然、そう言った。
「あやつを?構わないがまだまだ未熟だぞ」
「良い考えが浮かんだんでな。それからまたケイ、レツ、ロウを連れて行くぞ」
「ああ良かろう。場所はハルバードが居る所がいいだろう。」
「あいつか。先手は俺が打つと言っておけ。一応出番は残しておいてやるともな」
「ああ、戦果を期待しているよ」
そう言うが早いか、俊はカオスに背を向け、出て行ってしまった。
―戦っては駄目だ。なぜなら君たちには大きな敵がいるのだから―