有樹達は今グミシップ内に居る。ハッキリ言って狭い。外から見れば部屋一個分の大きさだからなんとかなるかと思うが、中は色んな機械で一杯であり、乗り心地は最悪。有樹の隣で麗が可愛い顔で寝ているが、今の有樹には羨ましいという感情しかない。なぜなら乗ってから数時間、一睡も出来ないからだ。因みに皆も寝ている。運転中のアンセムを除いて。しかし。アンセムの眼が開いてない。しかも目の前には巨大な隕石。そしてそれに気付いた有樹は一瞬遅れて騒ぎ出す。

「おい!アンセム!起きろ!」

叫ぶが、一向にアンセムが起きる気配がない。代わりにソラが起きたのだが、有樹はアンセムに起きて欲しかった。

「ん、どうした?有樹」
「寝ぼけるな!前を見ろ!」
「ん?前?って!隕石!?アンセム!起きろ!」

有樹と目の前の隕石に気づいたソラが必死に起こそうとするが、それでもアンセムは起きなかった。その後麗以外が起き、ソラと同じ反応をしたが、何故か最後にアンセムが起きた。しかし既に時は遅し。隕石は既に避け様がない程近くまで来ており、回避しようが攻撃しようが無駄である。結局アンセムが起きた意味も無く、グミシップは隕石に激突した。

「アンセムの馬鹿野郎!!」
「すまん!」
「すまんで済むかぁ!!」

余りの無責任さに有樹は腹の底から叫んだ。しかし叫んでも意味は無く、無駄に力を使っただけであった。隣を一瞥すると、麗はまだ寝ており、恐怖の表情等微塵も見られなかった。

グミシップは直ぐに機能を停止し、近くの星の引力に引かれて落ちて行った。



有樹が目を覚ました時、そこは、草原だけが広がり、特に見当たる物は無かった。ただ倒れている状態で見たので視野が狭い所為でもあるが。

体を起すと次にソラが起きた事に気づく。

―あれ?ここは?―

そのソラの声には違和感があった。確かに声は聞こえるのだが、耳から入る感覚では無く、頭の中で反響しているような感覚なのだ。

―え!?ソラの声が頭の中に聞こえてくる!―
―本当だ!有樹の声もだ!―

他から見れば一体何をやっているか分からないだろう。有樹達は口をパクパクさせているだけで、声は頭の中に聞こえるのだから。

―一体どういうことだろう?―
―分からない。けど取りあえず皆を起こそう―

ソラの意見ももっともだ。有樹は麗を起こすことにした。が幸せそうな顔をしていて一向に起きる気配が無い。しょうがなく他を起こそうとするが。カイリとリクはもう起きていた。有樹はまた頑張って麗を起こすことにした。

―麗!早く起きろ!―

実際声が出ている訳では無いが、叫んだ。ソラ達は頭を抑えている。有樹の声が余程頭に響いているのだろう。

―う〜ん。五月蠅いな。頭にがんがん響くような感じ―
―実際そうなんだからしょうがないだろ―
―あれ?有樹の声が頭の中に聞こえる。……エスパー?―
―違う。何故かは分からない。とりあえず簡単に説明すると。俺達はアンセムのせいでこの星に来た―
―アンセムのせいで?―

小首を傾げる麗。チラリとアンセムを一瞥するが、当の本人はまだ気を失っている。

―そうだ。あろう事か居眠り運転をして隕石に激突し今に至る―
―じゃあ、とりあえずアンセムを起こそうよ―
―ああ。しかし只では起こさん。―
―どうするの?―
―こうする―

そう言うと有樹はアンセムの腹を思いっきり踏みつけた。

―ゴホ!何をする!―
―何をするじゃねえよ!テメエこそなんて事しやがんだ!お前のせいでここに来たんだぞ!―
―うっ、それはすまなかった。しかしお前の声が頭に響くような―
―どうやら此処はそういう世界らしい―

有樹では無くリクが答えた。リクは至って平静であり、周りを良く見渡していた。

その後、一度周りを見ると、草原だが所々に木々が見えた。しかし風で枝が擦れる音が無い為余り実感が沸かない。そして有樹の視界にあるものが入った。

―ねえ。ソラ、あれ何だと思う?―
―あれは、・・・町だ!―

そう町だった。とりあえず最初の目的地は決まった。有樹達は町に行き情報をしいれる事とグミシップのエンジニアを捜すことにし、歩きだした。歩いて数分しか掛からなかったが音がないせいで、自然の中を歩いている気がしなかった。

―着いた!―
―麗、大声だすな。頭に響く―
―あっ!ゴメン―

どうやらその声は他の人にも聞こえるらしく、歩いている人は頭を押さえたり、意味は無いが耳を押さえている人がいた。中には馴れているらしく全然反応を示さない人も数人いる。遠くの方の人には聞こえてないらしく、全然反応を示さない。

―さて、どうする?―

リクの声が頭に響く。しかしどうすると言われても初めての町に来て何をすればいいのか良くは分からなかった。とりあえず。する事は一つしかないだろう。

―人に何か聞かない?―
―そうだな。ん?あの女の人がいいんじゃないか?さっきからずっとこっち向いてるし―

そう、さっきから有樹達の方をずっと見てる女性がいる。実際は麗の声の五月蠅さにビックリしているだけだった。

―じゃあ、あの!すいません!―

声を掛けると気づいたようでピクリと体を振るわせた。

―え?あっはい。何でしょうか?―
―あのさ、ここなんて言う町?―
―ここは、他の世界の貿易と音楽が盛んな町、クラシロクタウン、といいます―
―へえ、他の世界との貿易ねえ、・・・他の世界?―
―はい、そうですけど。何か?―
―あのさ、普通他の世界に干渉しちゃいけないんじゃないっけ―

ソラが言った。有樹には初耳だった。そして瞬時に思った。もう十分干渉してる様な気がすると。しかしそんな細かい事はすぐに頭から取っ払った。

―えっと、ここは唯一貿易が許された世界なんです。だから他の世界の人もよく来ますが。その人の世界の事を聞いたりするのは御法度です―
―そうなんだ。後音楽が盛んって言ってたけど全然音楽が流れて無いけど?―

そう言った瞬間女の人は寂しそうな顔をした。

―そうなんです。ここは最近、音を奪われてしまったのです―
―音を奪う?誰が?そんなことが出来るの?―
―はい、奪った人の名は、ハルバード、かなり強い魔導師です。そして私達は、あの人に音を奪われてしまったのです。そして今聞こえるのは人の声だけ―
―何で人の声だけなんだろう?―
―それは、分かりません―
―そうか、それにしても本当にそんな事がねえ―
―はい、全て事実です。あまつさえは、変な黒い奴等も町の外に蠢く様になって……―
―ハートレスか?それともノーバディか?どの道ここにも来ているというのなら、俺達がやることは一つだな―
―ああ。安心してくれ。ええ〜と―

リクがそう言うと思い出した様に女が口を開いた。

―ああ、すいません。私の名前はエミュルと申します。一応グミシップのエンジニアです―
―そうか、エミュル、安心してくれ。音は俺達が必ず取り返してやるよ―
―本当ですか!―
―ああ!その代わりと言っちゃ何だが。俺達のグミシップを直してくれないか?―
―いいですよ。でも無理はなさらないようにしてください―
―あっ!私が一緒に行こうか?ノーバディもいるみたいだし―

麗が提案した。それには皆賛成だった。そして麗とエミュルはグミシップの方へ歩いていった。有樹には若干不安もあるが、麗なら大丈夫だろうと判断した。なにせ短期間で多く魔法を習得していることから特に強い敵でも出なければ大丈夫だろうとの判断である。

―ところで、俺達はどうする?―
―う〜ん、とりあえずあのハルバードとか言う奴の事を聞いてみないか?―
―そうしようか―

リクの意見に有樹達は賛成し、町に別々に分かれて1時間聞き込みをする事にした。




……歩いて、聞いてかれこれ約30分。聞いた情報については少なかった。というより皆が知っている情報がほとんど同じなのだ。むかつくだとか、すごく強く逆らえないだとか、一番良い情報は、この町の中心の城を乗っ取って住んでいるらしい。そして音を奪うだけで何もしてない様だ。皆は普通に過ごして生きている。が、やはり音楽が急に無くなると寂しいのだろう。皆の表情は少し暗い感じがした。
そしてそれから30分経ち約束の時間になったので。有樹は町の入り口に戻った。そこにはもう既に皆集まっている。

―よう、どうだった?―
―ん〜〜。聞けたのはむかつくだとか今住んでいるのは町の中心の城だとか、それ位だね―
―はあ、そっちもか―
―そっちもと言うことは―
―そう、こっちも同じ情報―
―はあ―

有樹達は一斉にため息をついた。その時、ある物が目に入った。目の前の黒い物体、それを指し示す物は。

―ちっ!ノーバディだ!しかもハートレス付きで!ノーバディはともかく今更ハートレスは雑魚だ。さっさと蹴散らすぞ!―

ノーバディであった。その数約10匹。それからハートレスが約20体。しかし有樹はトラヴァースタウンで多少鍛えてあるから平気だろうと確信していた。恐怖という物を感じないのはソラやレオンとの特訓のお陰であろう。




―俊、やはり君には僕の声が聞こえてないようだね。でも僕は信じてるよ。何時の日か、きっと・・・・―