君はさ、友達の為にさ、その友達と喧嘩する時本気を出す?それとも手加減する?

知らん。だが、もしいるのだったら場合による。

いるのだったらって、友達いないの?

………。

だからそっぽ向いて黙らないでよ。


ENDLESS DARK Betrayal 4 〜思い掛け無い力〜


傍から見ればその構えは素人、走る速さも然程速くは無い。しかし、カイリはそんな事を省みずにソラへ向かって行く。対してソラは余裕の表情でカイリが来るのを待っている。先程コードに打ったファイガは使わないようだ。

約束のお守りが振り上げられる。ソード・オブ・デストロイが後ろに引かれる。

カイリは殆ど何も考えずに約束のお守りを振り下ろした。又、ソラは抜刀の構えからソード・オブ・デストロイを横薙ぎに一閃する。

金属音が響き、次の瞬間にはカイリが後ろに吹き飛ばされていた。初めて感じる浮遊感に違和感を覚えるが、その違和感は次の瞬間には無くなり、彼女はバランスを取り、足に多少力を込めながら着地する。彼女が思っていたより衝撃は無く、ホッと一息つく間も無くソラを見据える。

ソラはカイリの一連の動作に多少の驚きを感じていた。それもその筈、先程までは構えは素人、走り方もお世辞にも良いとは言えない。更にいくら常夏の島で運動やそのような類をしていても初めての実戦での混乱、焦り、恐怖によりあのようにちゃんとした着地が出来るとは思わなかったからだ。せいぜい後ろに無様に転ぶか、何回か後ろに下がるだろう。しかしカイリはちゃんと着地し、着地したすぐ後には態勢を整えていた。

ソラはそんなカイリの事を驚きはしたが、同時に喜びを感じた。今の彼が求める物は友達でも、平和とかそういう物では無く、単純な強さ。強くなるにはより強い敵が必要だった。

先程のように抜刀の構えを取り、カイリを睨む。しかしそれでもカイリは臆さずに、約束のお守りを堅く構えている。

地面を蹴り、多少の浮遊感を感じている時にソラはソード・オブ・デストロイを突き出しはせず、投げた。ソード・オブ・ドリームは回転しながらカイリの方へ飛んで行く。

ソラの考えではストライクレイドにより怯んだカイリを、持っている約束のお守りを弾き、叩き割った後にカイリを切り刻むつもりだった。が、カイリはソード・オブ・デストロイを弾き、そのままソラへと向かって行く。

舌打ちしながらソード・オブ・デストロイを掴み、風を切る音の発生源、約束のお守りの攻撃を受け止める。そのまませり合いになるが、急にカイリが力を抜き、後ろに下がる。力のやり場を失ったソラはバランスを崩し、前に倒れそうになる。しかしすぐに右足を前に出し、バランスを整え、カイリがいるであろう前を睨む。が、前には誰もいなかった。

「後ろよ!」

気合にも似た叫び声に反応し、左足で地面を蹴って前方に低く跳ぶ。紙一重で横薙ぎに振られた約束のお守りを避け、地面に着くと同時に手を地面に着け、倒立前転の要領で立ち上がる。

「残念だっ……」

後ろ、カイリのいる方を向きながら言うが、その言葉は遮られた。何故ならカイリは既に次の行動に移っていたからだ。彼女は一気にソラとの距離を詰め、頭上に構えていた約束のお守りを大振りに振り下ろす。

約束のお守りはソラには当たらずに地面に突き刺さっていた。ソラと言えばカイリより少し離れた所でソード・オブ・デストロイを構え直していた。

「何故だ。何故初めての実戦でそこまで動ける」

冷静な言葉。しかしそれはあくまで外面だけ。ソラは内心苛立ちが募っていた。確かにかなり手加減はしていたが、彼の予想よりも大分動けていた上に、多少なりとも彼を翻弄していた事が彼の苛立ちを募らしていた。

何故、と聞かれてもそれはカイリ自身分かっていない事だった。ただ戦う為にどう動けば良いのか分かった。単純に言えばそんな感じだった。しかしそれだけでは説明がつかない。ただカイリが少しだけ思っている事は、約束のお守りがカイリを動かしているのでは、と言う事だ。勿論その論の方が信憑性は無いだろう。だがカイリは何となく、あくまでも何となくだがそんな気がしていた。

ソラは苛立ち気味にカイリを睨み、カイリは多少困惑気味にソラを見ている時だ。第三者の気合を入れた叫び声と共に、ソラが右にある大木に向けて跳躍する。そして更にその大木を蹴り、その第三者の真上を通過する。

「腹を刺したのにまだ動くのかよ。リク」
「俺は、お前を止めてみせる!」

腹部の傷は治ったとは誰も言えない程酷かった。それでも動くのはリク執念か、それとも変貌した友への想いか。

リクは着地したソラに向かって走りだす。その走り方は傷の所為か、若干ぎこちないが、そんな事はお構いなしにソラの少し手前で跳躍する。過ぎ去りし思い出を斜めに振り下ろすが、ソラはしゃがんでそれをかわす。そしてソード・オブ・デストロイの切っ先をリクに向け、一気に突き出す。

ソラの手には、何かが突き刺さった感覚は無かった。代わりに剣から伝わる衝撃を感じた。地面に突き刺さったソード・オブ・デストロイを確認せずに、弾いた本人、カイリを憎憎しげに睨み付ける。そして一瞬反応が遅れたが、顔を後ろに引く。

リクの過ぎ去りし思い出はソラの顔には当たらなかったが、ソラの頬に一筋の傷を付けた。そのまま振り切った過ぎ去りし思い出でソラを突く。それは難なくかわされたが、間を空けずに約束のお守りを振り下ろす。

別にかわせない事も無いが、二人に気を取られ、地面に埋まっている、少し突き出した石に気づかなかった。そして踵をその石に引っ掛け、後ろに倒れる。振り下ろされる二つのキーブレード。狙いの先は顔でも、ましてや急所では無く、ソラの腕と足。

腕と足さえ一時的に動かなくしてしまえばどこにも行く事は出来ず、また攻撃する事も出来無いだろうと二人は考えていた。しかし二人の攻撃はソラに届くことが無く、変わりに丸い、何かに遮られた。

何時の間にかソラと二人の間に誰かが入り込んでいた。二つのキーブレードを遮った物は盾、それは黒くてガード・オブ・ドリームに似通っていた。

その盾を持っている人をリクは知っている。多きな耳に突き出した鼻、赤いズボンに少し大きい黄色い靴を履いたその人物はずっとリクとキングダムハーツで一緒にいた王様だった。

「ソラ、少し遊び過ぎだよ」

リクとカイリを盾の向こうから見つめたまま、ソラに話掛ける。ソラは笑いながら悪いと謝る。

「裏アンセムレポートは回収した。君も遊んで無いで早く戻ってきなよ」
「はいはい。分かりました王様」

王様は二人のキーブレードを弾き、次の瞬間には消えていた。

「王様。やっぱり」

消えた場所を見つめながら誰に言うでもなく、リクは呟いた。

「さてと、悪いけど時間みたいだから引き上げさして貰うぜ。あ、一応後三十秒位したらこの星も終わりだから。運が良ければまた合おうぜ」

そう言い捨てて、王様と同じようにソラも消えていた。そして次の瞬間、地面が大きく揺れた。

「カイリ!ディープジャングルが消えてしまう前に次の星に行くぞ!」

リクの叫び声にハッとしたカイリはすぐにリクの方を向き、頷く。そしてこの星に来る前にリクとコードがやっていた事を思い出し、約束のお守りと過ぎ去りし思い出を交差させる。

現れた扉を開け、確認する間も無くリクはカイリを先に入らせた。そしてリクは素早く横たわっているコードを担ぎ、扉の中へ入った。

その数秒後、一つの星が消えた。




燃えている屋敷を前に一人の男が立っている。恐らくは彼の屋敷なのだが、彼は別に呆然とすることも無く、ただ突っ立っていた。まるでこうなる事が分かっていたように。

「お前がアンセムか?」

突然、男の後ろから声が掛かる。男はゆっくりと後ろを向き、声を掛けてきた男の方を向く。

「そうだが?貴様が私の屋敷を燃やしたのか?」
「いや、俺じゃねぇ。俺の仲間だ。俺はお前を殺すように言われていてね。さっさと死んでくれ」

そう言って男はどこから出したのか、槍を振りかぶり、アンセムに襲い掛かる。

アンセムは短く溜息をつき、男の懐に入る。そして一気に腕を押し出す。腕は男の体を突き抜け、すぐに引き戻された。男は痛みを感じながら、地面に倒れ込み、血を吐き苦しそうに悶えながら生き絶えた。

「レポートは全て盗まれたか。まあいい、暫くは私も傍観させて貰うとしよう」

そう言い残してアンセムはその場を立ち去った。