誰かに出会うとさ、色々な知識がついていいよね。

どうだか。案外無駄な知識がつくだけかもしれないぞ。

そんなことはないよ。

じゃあお前はどんな事を聞いた?

えっとねえ。あの街の、酒場のバイトのマリーだったかな?メリーだったかな?取りあえず女の子が可愛いって。

………。


ENDLESS DARKE Courage 1 〜辺境の村〜


うっすらと目を開ける。真っ白い天井。窓から見える青空。まずそれらがコードの目に入った。外からは小鳥の鳴き声が聞こえ、自然と平和を感じさせる。

溜息をつきまた目を瞑る。……そして開ける。

「此処は何処だ?その前に何故僕はそのまま寝ようと……」

体を起こしながら先程の自らの行いに戸惑う。しかしその前に此処は何処かを把握するために部屋を見渡す。部屋には棚という棚にぎっしりと本が敷き詰められ、粗悪な机と椅子が一つずつ。そしてコードが寝ているベッド呑みだ。窓は一つしかなく、天井の蝋燭だけで部屋は暗い。一体誰が好きこのんでこの様な部屋に住んでいるのだろうか。

視線を少しずらし、隅の方を見ると、下に降りる梯子があった。何故階段ではなく梯子なのだろうかという疑問もあったがまずは降りてみることにした。

梯子は頑丈に出来ており、軋む音も聞こえず安心して降りる事が出来た。

「あ、目が覚めたんだコード」
「ん?ああお早うカイリ」
「お早うじゃないですよ。今は昼の3時、したがって早くは無いですね。まあとにかく目が覚めて良かった」

カイリの向かいにいる青年が笑いながら答えた。コードは直ぐに青年はこの家の持ち主と察した。青年は青いマントを羽織っており、動きやすそうな黒のズボンを履いていて、白の長袖を着ていた。髪は整い目は青く、眼鏡をかけ聡明な雰囲気を漂わせている。

「ところで此処は?それからあなたは誰ですか?それからリクは何処に?」

次々とコードは質問を青年に投げかける。その答えに青年はテキパキと答えた。

「順々に答えましょう。この村の名前はダリ。辺鄙な村ですがいい所ですよ。村の人も優しいし。空気も美味しく子供達は活気に溢れています。それから私はウィズと申します。昔はアレクサンドリアの魔導守備隊に入っていたのですが、私はそういう事になると消極的になるのでいつのまにやら辞めさせられて此処に来たのです。魔法は中の上ぐらいですね。それからリクさんは朝から出かけて行きましたよ。此処がどういう地形なのか把握しに行くとか言って。崖があるから気をつけて下さいと言ったのですが果たして大丈夫なのでしょうか。さて、この位ですかね。とにかく私の家にようこそ、コードさん。それからあなた達は2日前にこの村のすぐ近くで倒れているのを発見され唯一回復魔法を唱えられる私の家に運び込まれた訳で」

ベラベラ良く喋る奴だなと思いつつも全て言っている事は理解した。しかしダリやらアレクサンドリアやら知らない土地の名前ばかりだ。当然と言えば当然なのだが。

「参ったな。全く知らない世界に来ちゃったのか」
「それがどうかしたの?確かにソラには関係ない世界かもしれないけど扉は私達に此処で何かをさせるために繋いだんじゃないかな?」

カイリの言うことももっともだった。しかしその何かがよく分からない。ソラに関係ないのならば一体此処で何があるというのだろうか。これ以上の嫌な事はあっては欲しくない。

カイリは目の前では笑顔で気丈に振る舞っているが実際、心の中の悲しみは誰よりも多いだろう。そしておそらくリクもそうだ。リクの事だから一人になりたいが為にこの辺を調べてくると言ったのだろう。

しかし自分はどうだろう。大して悲しみもない。それどころか前々からこの事が分かっていたような気がする。ディープジャングルで会った時は動揺していたのか、そんな気持ちは全く無かったのだが。

「さあさあ、そんなところで突っ立ってないでここに座ってちょっと遅いけどお昼ご飯でもどうだい?」

コードが思案を巡らしているうちにウィズはどうやら自分の隣に椅子を置き、ご飯を用意していたようだった。すでにテーブルの上には料理が置いてあり、ウィズの目は座れと訴えていた。一体どこが消極的なのかと思いながらもコードは席についた。

「それにしても、中の上程度でもこの肩の傷がこれほどまで治るものなのか?」

目玉焼きを口に含みながら訊ねる。

「そうですね。アレクサンドリアは以前はそれ程ではないにしろ、今となっては黒魔導士の村に次ぐ強さなので結構僕の魔法も強力なのかもしれませんね。アレクサンドリアは昔は騎士大国だったのですが、今は魔導師も沢山いますね。勿論今でも十分騎士の方が多いですが」

本当に良く喋る。コードは何故ウィズが自分を消極的といったのか理解に苦しんだ。それでも腹が減っているので次はサラダに手を伸ばす。

「それからアレクサンドリアと交友関係があるリンドブルム。あそこは飛空艇大国と呼ばれ交易が盛んですね。一度飛空艇に乗った事がありますがあの眺めはまさに絶景。乗った事が無いのなら一度は乗ってみるべきですね。あ、でも此処にも空の移動手段はありますよ。カーゴシップといって飛空艇には劣りますがアレクサンドリアとよく交易してます」

聞いてもないのにウィズは喋り続ける。コードはもう何が消極的なのかは特に考えない事にした。ふとカイリを見るとパンを食べながら楽しそうにウィズの話しを聞いている。実際楽しいのかは、分からないが。

「そう言えば最近世界は物騒ですよ。ただでさえ魔物がうろついているというのに最近は黒い化け物がうろついてるとか」
「ハートレス?この世界にもやっぱり来ているのか。すると何かしらソラと関係があるのか?」
「どうだろうな。どのみちこの村や此処付近にいてもなにも分からなそうだぜ」

リクが皮肉げに、というか苛立たしげに入って会話に乱入してきた。

コードは肉を一つ取り、リクに勧めるがリクは手を前に出し、断った。そして肉はコードの口の中に入っていく。

「……良く食うな。そういうとこはソラに似てるんだな。冷静な癖して」

コードは少し自分の顔が赤くなったのを感じた。カイリもコードを見て笑っている。ますますコードの体温が上がる。

「さて、コードも起きた事だし、他の場所にでも向かうか」
「そうだね。此処に居てもなにも分からなそうだし。まあウィズさんの話しは楽しかったけどね」
「ところで君達はどこに行くつもりだい?アレクサンドリアならご一緒しようと思うんだけど」

とつぜんウィズが切り出した。アレクサンドリアは先程ウィズが説明していたからコードは大体どんなところかは分かった。町並みはどんなのかは分からないが。とにかく知り合って親しくなった者と一緒に行動出来るのはコード達には好都合であった。

ウィズの申し出を承諾するとウィズは二階に上がり、直ぐに荷物を背負って降りてきた。どうやら用意は前々からしていたらしい。何でもアレクサンドリアから手紙が来たとか。

一行はダリ村の離れた場所でカーゴシップに乗り、アレクサンドリアを目指した。