君は突然の出来事にどう対応する?

冷静に判断するだけだ。

出来るの?

愚問だな。

カッコ良いね。

誉めてるのか?

からかってる。

ふん。


ENDLESS DARK Feeling 2 〜空からの強襲〜


スタイナーが野営の準備をしている間に森は既に暗闇に包まれていた。ティーダはスタイナーが準備をしている間に薪を拾いに行っていた。勿論ハートレスに襲われる可能性があるのでそれ程遠くまで行ってはいない。

ソラやリクならハートレスと戦えるがティーダは武器も持たず、また実際の命を賭けた戦いが出来るほど強くは無かった。つまり戦う術を持たないティーダが動き回れる範囲は限られているのだ。

しかしティーダは先程の事を恥ずかしいとは思っていない。寧ろあのような敵に会っても倒せるような力が欲しいと思っていた。それはもっと強くなりたいと願う向上心であり、彼の原動力でもある。

拾った薪に火を付け、スタイナーが狩ったらしい動物の肉を焼く。その肉の焼ける香ばしい匂いはティーダの空腹を誘った。

焼けたと思われる肉をスタイナーはティーダに上げ、ティーダはそれに齧り付いた。余程空腹だったらしく、ティーダは休まずに肉を食べつづけている。その様子をスタイナーは微笑ましく見ていた。

「ところで、これから行くリンドブルムってどんな所っスか?」

人の目の前という事を思い出したのだろう、ティーダは食べるスピードを緩め、同時に気になっていた質問をした。ティーダはここに来たばかりで知らない事ばかりなので好奇心が沸いているのだ。

「リンドブルムは一言で言えば貿易大国だ。どこの国よりも飛空挺の技術が進んでいる」
「飛空挺?」
「飛空挺は無いのだな。飛空挺は、空を飛ぶ船と考えて貰えば良い」
「船が空を飛ぶんスか!?」

言った瞬間ティーダは目を輝かせた。小さい島で育ち、遊んでいた彼にとって空を飛ぶと言う事がまず魅力的だったからである。

「うむ。今では人を乗せる事が出来るが昔は殆どが荷物を乗せるだけだった」
「へぇ。じゃぁ、俺も乗れるッスか?今から行くって言う事は」
「恐らくそうなるだろう。我輩はお主をアレクサンドリア城へ連れて行こうと思っている」
「アレクサンドリア城?」

オウム返しに尋ねながらも目はずっと輝いている。新しい事が大量にあり、ティーダはそれを知ることに喜びを覚えている。スタイナーは一息付くと口を開いた。

「そう、我等騎士達が守り、誇る国。それがアレクサンドリアだ。しかし王がやっかいな奴で」

ティーダは色々聞こうとしたが急にスタイナーがぶつぶつ言い出し、自分も色々整理する必要があるので質問をするのは止めた。その時。

「ハートレスか?」

小声で何かを言っていたスタイナーが突然剣を抜き、回りを見渡す。最初ティーダには分からなかったが、少し時間が経つと確かに回りから気配が聞こえてきた。普段戦闘に馴れているだろうスタイナーだからこそ素早く察知出来たのである。

気配は次第に近づいて来る。その時ティーダは先程襲われた恐怖を思い出していた。感情を感じさせない目を。

しかしティーダは多少震えながらも棒を構えた。自分が太刀打ち出来る相手では無いと分かっていながら。それでも立ち向かおうとする決意を心に決めていた。その姿を横目で見ていたスタイナーはつい微笑みをこぼしたが直ぐに引き締め、再度回りを見渡す。

四方向から突然ハートレスが飛び出して来た。先程と同じパワーワイルドである。

スタイナーは前方から襲って来たハートレスの懐に飛び込み、同時に剣を突き立てる。深深と突き刺さり、パワーワイルドは闇に消えた。地面に降り立ち、振り向き様に剣を目の前に持っいき、右からやってきたパワーワイルドの爪を止める。

戦いながらでもスタイナーは回りを見渡す余裕があった。そこでティーダを一瞥すると、最初立っていた位置の後方から現れたパワーワイルドと対峙している。しかも先程は直ぐにやられていたが今回は多少粘っている。それでも勝てるとは思えなかったが。

意識を目の前の二匹のパワーワイルドに戻し、一匹のパワーワイルドに走りより、数歩手前で跳躍。パワーワイルドは向かえ打とうと爪を立てるがスタイナーはその爪を物ともしないようにパワーワイルドを両断した。そのまま左に跳躍し、もう一匹のパワーワイルドからの攻撃を避ける。

避けたは良いが、パワーワイルドは直ぐに迫って来た。先程のスタイナーと同じように数歩前で跳躍し、スタイナーを捉える。しかしスタイナーは剣で受け止め、上に弾き飛ばす。そして落ちて来た所を剣で一閃した。両断されたパワーワイルドは闇に消えた。

一方ティーダは防戦一方であるが、まだ戦い続けていた。しかも次第に戦いに馴れつつある。相手がどう攻撃するかを読み取り、避けて、持っている棒をパワーワイルドに叩き付ける。訊いた様子は無いが、やらないよりはマシだった。

パワーワイルドが跳躍し、爪で空を引っ掻き回しながらティーダを狙う。ティーダは滑り込むようにパワーワイルドの下に行き、棒を横に向けてパワーワイルドの両足首に掛け、上に押し上げた。パワーワイルドは空中で回転し頭から地面に落ちた。

しかしそれも訊いた様子が無い。成すすべが無いとはこの事だろう。だがティーダは戦う事に喜びを覚えていた。いや、自分が強くなる事に。

パワーワイルドはスライディングのようにティーダを狙うが、ティーダは側転をして右に避け、パワーワイルドに向かって跳躍し、自らの体を回転させて棒を思いっきり叩き付けた。しかしティーダの棒は外れ、地面に鈍い音を立てただけだった。

パワーワイルドはすぐに体勢を立て直したらしく、ティーダが向かって来た時にはティーダの後ろに移動を始めていたのだ。そして背を狙い跳躍する。

後ろを見てパワーワイルドが襲って来るのは見えたがティーダには避ける術が無かった。駄目かと思い目を瞑る。しかしまた痛みは来なかった。

目を開けるとやはりスタイナーがティーダの目の前に立っていた。

「中々良く戦えていたぞ」

ティーダの方に振り向き、微笑みながらそう言った。ティーダはずっと見られていたのだろうと悟り、また、スタイナーに誉められて頬を赤らめた。

「お主は鍛えれば強くなる。是非ともプルート隊に入れたいものだ」
「プルート隊、って何スか?」
「我輩の部隊の名前だ。昔は少なかったが今では30を超える。選りすぐりの精鋭達だ」
「そんなのがあるんスか?俺入りたいッス!」
「そうかそうか。うむむ、しかし主を入れる訳には」

先程まで嬉々とした表情だったが今度は悩み始めた。ティーダは入れる訳にはいかないと言われたが理由も分からずに食い下がらない訳にもいかなかったので直ぐに理由を聞き返す。

「何入れる訳には行かないんスか!?」
「うむむ、その理由は今は言う訳にはいかない。アレクサンドリアに言った時に話そう」
「今話して欲しいッス」

あくまでも食い下がろうとしないティーダだが、スタイナーももた、話す気が無いらしく、ティーダの質問を全て適当にあしらった。

言って無駄だと思ったのか、ティーダは今度はスタイナーを睨み始める。スタイナーはその視線を受け流し、ティーダに毛布を放った。既に夜が更けて時間も遅いとの判断である。そしてティーダは毛布の暖かさと睡魔に負け、何時しか寝入っていた。



翌朝、ティーダが目覚めた時スタイナーの姿は無かった。その事に焦ったが、荷物が全て置いてあったので少しどこかに行っているのだろうと分かり、安心し、毛布をたたみ始める。その時、近くの草が擦れた音を立て、ギクリとし体を固める。しかし出てきたのはスタイナーだった。

「起きたか。さて、朝食をとった後にリンドブルムに向かうとしよう」

そう言って先程狩って来たのか、動物らしき肉をティーダに渡し、スタイナー自身も食べ始めた。

朝食もそこそこに二人は荷物を纏め、森の中を移動し始める。流石にティーダとは違い、森の中を迷いも無くスタイナーは進んで行く。よほど旅馴れているか、この森に何度も入った事があるのかのどちらかだろう。

一、 二時間歩いた時だ、上から聞こえた変な音に二人は気づき、立ち止まった。そして怪訝な表情で
を見上げると、上から一人の男が降って来た。

「ぃよいしょっと!」

空中で一回転し、掛け声と共に男は地面に降り立った。落ちて来た時にかなりの高さだったのを二人は確認している為、目の前の出来事に驚いた。

「ん?あれ?君たち誰?俺?俺はテネシウス。宜しく」

忙しそうに、しかし能天気にテネシウスは挨拶をした。まるで先程飛び降りて来た事など遠い昔の事のように。

「その黄色い目。ノーバディか!」

行った瞬間スタイナーは荷物を下ろし、剣を抜いた。ティーダは状況が読めず、ただ状況に流されていた。

「ノーバディの存在を知ってるんだ。ん〜、別に隠す事も無いけど、折角強そうな人に会えた事だし、一つお手合わせ願おうかな」

スタイナーと同じように槍を構えたが、それでもテネシウスの能天気な表情は崩れなかった。

ティーダは訳が分からないとでも言うように立ち尽くしていた。二人を見、その重い空気に息呑む。そして瞬きをした瞬間、二人の姿を捉える事は出来なかった。変わりにティーダの耳には金属と金属がぶつかった音を聞いた。

その音はティーダに戦いの始まりを告げていた。