君は戦う事ってどういう事だと思う?

自分に勝つ事

何それ

それが俺の戦う事だ

意味分からないね

五月蝿いな


ENDLESS DARK Feeling 3 〜戦う理由〜


一撃、二撃と斬撃の数は音のおかげでティーダにも把握する事が出来た。しかし状況と両者の太刀筋は把握する事が出来ていない。両者共に素人では分からない程の速さで剣を振るっており、ティーダにはどっちが優勢なのか分からなかった。

「やるねぇ!」

戦闘中にも関わらず、テネシウスは余裕の声でそう言った。それだけで戦闘を楽しんでいる事が分かる。一方スタイナーは楽しむ事は無いがその顔にはまだ余裕があった。まずは小手調べと言う事だろう。

どちらかと言えばテネシウスは防戦一方である。これはスタイナーが勝っているのでは無く、テネシウスが攻撃を誘い、斬撃を槍で受け止めているだけだが。

「あんた、見かけもそうだけど。力で押し切るパワータイプだろ」

スタイナーは答えない。しかし分かっているとでも言うようにテネシウスは口の両端を吊り上げ、笑った。

スタイナーは剣を軽く振り上げ、すぐに振り下ろす。そしてそれを予想していたかのようにテネシウスは槍を横に向け、剣を受け止めようとする。しかしスタイナーの剣は槍に当たる事は無かった。

テネシウスは右手だけで槍を持ち、左足を軸足に回転し、遠心力の力を借りて槍をスタイナーに叩き込んだ。

「おぉ!?」

しかしスイナーはしゃがんで避け、そして剣を下から斬り上げた。テネシウスも直ぐに後ろに下がるが、遠心力に任せ、更にこの攻撃を予想出来ていなかった為に右肩の付け根を薄く斬られていた。

「あら?完璧入ったと思ったんだけどなぁ」

斬られていても尚テネシウスは余裕を見せていた。戦闘中にも関わらず右手を顎に持っていき、考えている事を表す事も忘れていない。

「槍を引く前に右足のつま先が少し浮いていた。ならば次に来る攻撃は先ほどの方法か、または右足で踏み切り、力の限り攻撃するかのどちらかだったからな」

スタイナーも又動かずにテネシウスに理由を教えた。それは言ったところで相手は同じような攻撃をする筈が無いと思ったからだ。

「成る程。今度から気をつけよう」

そう言った瞬間、テネシウスの姿が消えた。

「因みに俺はスピードタイプ」

声に直ぐ反応したスタイナーは瞬間的に前に踏み込んだが、テネシウスの槍の方が早く、背中を斬られそうになったが、甲冑のお陰で何とか助かった。

「パワータイプの攻撃は確かに恐ろしいよ」

先程立っていた場所を振り返った時には既にテネシウスの姿は無く、また後ろから声が聞こえた。今度は持っている剣を背中に回し、槍を受け止める。

「だけど当たらなければ意味が無い」

体を回転させ、剣を叩き付ける。しかしやはりテネシウスは既にそこから消えていた。そして声はまた後ろから聞こえた。

「俺のスピードにあんたは付いて来れない」

スタイナーは後ろに踏み込み、テネシウスに体当たりをすると共に剣を横に振った。何かが掠った感覚はしたが手ごたえは殆ど無い。

「筈なんだけどなぁ」

自分の服に付いた斬り傷を見ながらテネシウスは呟いた。その表情はどこか間抜けだ。

「生憎だが我輩はこの世で最もすばしっこい奴に仕えておる。だからその程度のスピードを見切るなど造作も無い」

少し嫌そうに、だが誇らしくスタイナーはそう言った。

「成る程ね。この世で最もすばしっこい奴か。でも、俺の本当の速さを見誤るなよ」

そう言った後、テネシウスは腰を落とし、槍を後ろに引いた。そしてその直後、テネシウスの周りが黒く、そして金色に光始める。そして右足で踏み切り、前に跳躍。

スタイナーは反射的に右にステップし、金と黒の一閃を避けた。しかし避けきれずに左手に多少の傷を負ってしまった。

後ろから感じる殺気にすぐに身構え、後ろを振り向く。その時既に金と黒の一閃は近づいていた。しかしスタイナーはやはりぎりぎりのところで交わし、身構える。

「やるな!このスピードに付いて来れる奴はそうは居ない!だが、いつまで続くかだ!」

前後左右、余りの早さにスタイナーは避けるだけで精一杯である。しかし何時の間にかスタイナーが受ける傷が少しずつ小さくなっていった。馴れてきているのである。

しかし完全に避けられると思ったその時に体が動かなくなった事に気づく。直立に立ち、腕は体に縛り付けられたように密着している。

「糸だ!一応人位なら簡単に切れる筈だがあんたの甲冑のおかげで遮られてるみたいだな!だが身動きが出来なければどちらにしろ終わりだ!」

鈍い音が森に響き、次いで激しく木にぶつかる音が木霊した。

何も出来ずにただ傍観していたティーダは金と黒の跡を追いそして見た。スタイナーが槍で串刺しにされ、木に張り付いていたのを。

「悪いな。俺はスピードと同時にパワーもあるんだ」

テネシウスは槍を抜きながら言った。槍を抜くと同時にスタイナーの血が辺りに飛び散り、またテネシウスにも掛かった。

支えが無くなり、スタイナーは地に伏し、うめき声を上げる。それに気づいたテネシウスはますます嬉しそうな顔をした。

「まだ生きてるのか。凄いな。あれを喰らえば流石に死ぬかと思ったのに。まぁ良いや、これで終わり」

独り言か、またはスタイナーに言ったのか定かでは無いが、テネシウスは槍をゆっくりと揺り上げ、そして刃先をスタイナーに振り下ろす。

しかしテネシウスが完全に槍を振り下ろす事は無かった。ティーダが持っている棒でテネシウスの槍を弾き飛ばしたのだ。

その時、先程の楽しそうな顔とは一変し急に険しい顔になった。

「なんだお前。弱い癖に邪魔するな。俺は弱い奴は大嫌いなんだよ。さっさと失せろ」

そう捲し上げた後ティーダを手でどかそうとするがティーダはテネシウスを睨みつけたままそこを動こうとしない。あくまでも好戦的な目付きでテネシウスを睨み続ける。

「邪魔だっつってんだろ!どけ!」

先程では考えられないような険しい台詞。口調はどんどん苛立ちが募っていき、嫌悪感を隠しもせずにティーダにぶつける。流石にティーダもたじろいだが、その場を動こうとしなかった。

「ガキが。死ね!」

槍がティーダに振りおろされた。気休めに棒を構えたが、やはりおもちゃのような棒で槍を防げると思っていなかったティーダは堅く目を瞑った。

森に金属と金属がぶつかる音が木霊した。

音に反応してティーダは目を開けた。ティーダの目の前には今にも倒れそうなスタイナーがテネシウスの槍を受け止めている。

「良く、動けたな。だがそんなガキを助ける為に動くのは良いと思えないな」

スタイナーは息も荒く、朦朧とした意識の中でテネシウスの声を聞いた。少し聞き取り辛かったが、スタイナーは正確に言った事を把握していた。

「人一人守れるようでは騎士の名が廃る。絶対にティーダを殺させはせん」

息絶え絶えで言ったがその声には力が篭っていた。

ティーダは目の前の男の言葉をしっかりと聞き、胸が熱くなった気がした。それは感謝、尊敬、そして憧れ。だがテネシウスはティーダとは反してさらに表情を険しくさせた。

「そんな体で何が出来る。お前を殺してそのガキも殺してやるよ!」

槍でスタイナーをティーダごと吹き飛ばす。そして跳躍し、スタイナーを捉える。

ティーダはすぐにスタイナーの下から抜け出し、棒で槍を弾いた。

「邪魔するな!」
「……おっさん」

テネシウスの暴言を無視し、スタイナーを見ずにティーダは声を掛けた。

「俺、今まで戦う目的とか良く分からなかった。今まではただ強くなりたいって思てた。だけど」
「死ね!」

テネシウスが再度跳躍した。

「カイリが言ってたッス。強くなるなら何の為に強くなるのか良く考えろって。だから俺は決めた」

テネシウスがティーダに向かって槍を振り下ろす。ティーダは顔を上げ、持っている棒を力強く上に振り上げた。

「俺は、俺の大切な皆を守る為に強くなる!」

ティーダが持っていた棒が光、棒が姿を消した。その代わりティーダの手に現れたのは一つの剣。ソード・オブ・ドリーム。

槍を受け止め、テネシウスごと弾き飛ばす。

「それは、コードが使っていた」

呆然としながら剣を見るテネシウス。しかしすぐに先程の表情に戻し、槍を構える。

「所詮剣を持ったところでお前はただの雑魚だ。殺す事には変わりない」
「なめるな!」

ティーダはテネシウスに向かって跳躍、余り早い動きでは無いため、テネシウスは直ぐに槍を振り下ろす。しかしティーダは剣の刃で槍を流し、横薙ぎに振るった。刃はテネシウスの腹部を掠めただけだったが、その部分から血が出ている。

「貴様っ!」
「取り込み中悪いんだけど、お前どっか行ってくれない?」

突然聞こえた声にテネシウスは急いで振り向いた。そこには何故か尻尾が生えている一人の男が立っていた。刃が両端に付いている剣のような武器を持っているが、相当馴染んでいるように持つ部分が少し形を変えている。

「誰だ。お前は」
「俺?俺はジタンってんだ。そんな事より、早くどっか行け。行かないなら殺す」
「ふざけるな!」

槍で一閃するが既にジタンはその場から消えていた。驚いて回りを見渡すがジタンの姿は無い。

「そんな取り乱してたら勝てるもんも勝てないぜ。じゃぁな」

声に反応し、上を見上げた時には既に刃が振り下ろされた時だった。ジタンの武器はテネシウスを一瞬にして両断した。

「そ、そんな馬鹿、な」

そう言い残してテネシウスは闇に消えた。

「なんだあいつ、弱いな」
「っく、弱い理由はジタン、お主にも分かっておるだろうが」

スタイナーが何時の間にか身を起していた。直ぐに倒れそうになるがティーダが駆け寄り、スタイナーの体を支える。

「まぁな。お前の事だから気づかれないようにショックを使ってたんだろ」
「ショック?」
「おっさんの技。原理は良く分からないけど強いんだ、あれ。それよりスタイナー。直ぐに国へ帰るぞ」

ハイポーションをスタイナーに投げ渡しながらそう言った。その言葉にスタイナーは驚きの表情を見せた。

「しかし、まだ我輩はリンドブルムに!」
「行っても無駄だ」

スタイナーの言葉を遮って言った。

「リンドブルムは滅んだ。ハートレスにやられたらしい」
「なんと!しかしそれではエーコ殿は!」
「分からない。今の所は行方不明だ。上手くシドの爺さんと抜け出せてれば良いんだけど」

ハートレス、ノーバディ、エーコ、シド。ティーダには全く分からない単語が羅列し、状況が全く把握出来なかった。説明して貰おうと口を開きかけたがジタンに目で止められた。

「今は時間が無い。スタイナー直ぐにアレクサンドリアに戻るぞ。既に皆準備を始めている」
「準備?一体何の」

ジタンは一呼吸置き、スタイナーを真っ直ぐに見つめる。

「ハートレス達の総攻撃に対しての応戦準備だ。そしてスタイナー。王に仕える者としてはじゃなくて、昔の仲間としておっさんに一緒に戦って欲しい」
「……承知した。ところでこのティーダも一緒に連れて行くぞ。なかなか筋が良い」
「最初からそのつもりさ。もうすぐ違う客人も来る事だし、早く帰ろう」

ジタンはスタイナーに肩を貸し、森が開けている場所まで歩いていき、上を見上げた。攣られてティーダも上を見上げると、そこには青く、神秘的な船が浮いていた。口を大きく開いているティーダを見たジタンが苦笑し、説明した。

「あれが俺達の船、インビンシブルだ。さぁ、行くぞ、俺達の城、アレクサンドリア」

ジタンがそう言い終わった直後に彼等の姿は消え、飛空挺、インビンシブルはアレクサンドリアへと飛び立った。