君は僕の顔が見える?
見えるに決まってるだろ
意味が違うね
どう言う意味だ
ようするに僕の顔が見えてないって事
分からん
ENDLESS
DARK Truth 2
〜真実と謎〜
相手の顔も見えない程の闇に包まれた部屋。更に深い闇から出てきた男はフードを被っていて誰だか分からない。ただリクはどこかで同じ気配を感じた事があったのか、表情を厳しくする。無論、コード達にはこの闇のせいで見る事は出来ない。
「誰だ、お前」
部屋の中の誰かが言った。その言葉に反応したように部屋の蝋燭に火が灯る。ただその火力は微量でまだ薄らと暗く、部屋の中の人物を確認出来る程度だ。
闇の中で何かが動いた。誰かが動いた場所を確認するとリクが消えていた。次の瞬間、部屋中に金属音が響き渡る。
「何の用だ、アンセム」
キーブレードで槍を弾き、低い声でリクが言った。そしてアンセムと言う言葉にコード、カイリが反応した。
「何の用?言った筈だ、話をしに来ただけだとな」
「誰が信じる」
「ノーバディ、無の世界の真実。お前達の敵、そしてソラ、王の真実を教えてやる」
ソラ、王と言う言葉に反応し、数秒躊躇した後アンセムから離れ、キーブレードを消した。それから油断無くコードの隣へと戻り、椅子に座った。
「それで良い。他の者も武器を収め、座れ」
アンセムもすぐに槍を消したが、彼自身はそこから動いていない。だが他の者は全員武器を収め、アンセムを警戒しながらも座った。
「さて、まずは」
「ソラの事から話せ」
間髪を容れずにリクがアンセムの言葉を遮った。アンセムは手を顎にやり、頷いた。
「良いだろう。ソラは、光の扉を作り出した。リク、お前を助ける為にな。が、ソラの期待は外れ、出てきたのは王だ。既に闇に染まったな」
「一つ質問させて貰うが、何故王様は闇に?」
「……キングダムハーツだ」
コードの質問に答えたのはアンセムでは無くリクだ。アンセムが喋るものとばかり思っていたコードは目を見開いてリクを見た。しかしリクはアンセムを無表情に見ているだけで感情は読み取れない。
「そう、キングダムハーツだ。王はあそこに居すぎた。王の絶大な光はキングダムハーツの闇に多いに影響を受けた。いや、受けすぎた。闇の侵食は王の予想を超えていた」
「王様は決して自分の中の闇を恐れなかった。だが、その心その物を闇は侵食していた。だから俺と途中で分かれた。俺が、無事にキングダムハーツの外へ出られるように」
一瞬だけリクの顔を強張った。恐らく王様を止められなかった事への自責の念から来ているのだろう。
「確かにリク、お前の言う通りだ。だが王はそれでも耐えていた。恐らく後少しでもソラが光の扉を見つけるのが早ければ、王は無事だっただろう」
途端、リクは困惑の表情を浮かべた。その理由はコードも分かっているが口には出さなかった。何故かこれはリクの問題だと思ったのだろう。
「もし早ければ無事だった?どう言う事だ?」
「状況的にはお前と同じだ、リク」
「俺と、同じ?」
リクの困惑した反応にアンセムは薄く笑った。まるで何かを思い出すように。
「そうだ。闇が侵食した者には必ずと言って良いほどに心に隙が出来る。そこを突く者がいたのだよ。私と、リク、お前と同じ様にな」
一瞬、リクの目が怒りで燃え上がったような錯覚に捕らわれた。忘れる筈が無かった。リクは以前外に出たい思いに駆られ、その隙を突かれてアンセムに体を乗っ取られた。
コードは一瞬、ソラと敵対していた時のリクを思い出した。傍目から見ればソラを馬鹿にしているようだったがその心にはアンセムによって深い闇を持っていた。
ふと、コードは一瞬違和感を覚えた。何度も感じた感覚。漠然と、何となくは分かっては来てはいるがその理由は彼には分からなかった。彼はソラと接触しているから。そして、ソラはコードを知らなかったから。
「誰が、王様を?」
「……私とは似て非なる存在が集まった組織、ENDLESSだ」
「エンドレス?」
「そうだ。光と闇を彷徨うただ力を求める者たち。生と死を彷徨うと言えば予想は付くか?」
「……ノーバディ」
ジタンがゆっくりと答えるとアンセムは小さく頷いた。
「お前達が知る情報ではその通りだ。偽りの体に在る愚かなる魂。光と闇を彷徨う愚かな者達。奴等はまず王を仲間に引き入れた。心の隙を少しづつ攻めながら。そして、奴等は光の扉を開けたソラに王と……ノーバディを仕向けた。王の従者達も闇に染められた。そして、一年程逃げ延びたソラも遂には闇に染められた」
「待て、お前が言う分には奴等は光と闇を彷徨う存在なんだろう?ならばソラの中にも光がある筈だ」
リクの問いにアンセムは低く笑った。笑い声が部屋の中を不気味に木霊する。
「そうだ、確かに王にもソラにも光はあった。だが、今は彼等の中には無い」
「どう言う事だ」
「それについては後で答えよう。一つ言わねばならん事があるからな」
そう言うとまたアンセムは低く笑い始めた。何が可笑しいのかは当然本人以外には分からない。だからこそ不気味さが彼等全員を襲った。
「お前達の言うノーバディと言う存在は、ノーバディでは無い。私は彼等をエンドレスと名づけた」
「アンセム」
暗く冷たい低い声が、この場にいる誰でも無い声が部屋の中に響いた。アンセム以外の全員が一層警戒を強くする中、全員の丁度真中に位置する机の上に濃い闇が現れ、一人の男が闇から姿を表した。
「貴様、先のはどう言う事だ」
「盗み聞きとは良い趣味では無いな、カーズ」
カーズと呼ばれた男から闇が溢れ出ている。回りにいる者はその闇の濃さに圧倒されていた。
「その上お前の敵がこうも揃っている中で出てくるとは」
「何とでもなる。しかし貴様の言葉は聞き捨てならん」
「貴様は私に言った。貴様のもう一つのレポート、裏アンセムレポートにノーバディの事を記したと。そしてこうも言った、探せ、お前なら見つけだせる、とな」
突然現れた来訪者に誰も口を開けずに見守っている。何より、彼等が喋っている事はコード達にとって何故か興味深い気がしたからだ。
「貴様の言う通り私は全て見つけ出した。そしてそれには強い魂がハートレスに宿る事でノーバディが生まれると書かれていた」
「一つ言わせて貰えば、私はそれが真実だとは一言も言っていない」
「貴様」
「更に言わせて貰えば、私はお前を信じてはいない。そしてお前は私を信じていない」
瞬間、カーズが纏っている闇が膨れ上がった。圧倒的な闇の量ひ怯む者もいたがアンセムは薄く笑うだけで何の反応も見せない。
「人間、ハートレスはノーバディ、いや、エンドレスとなる。が、逆も場合は考えた事があるか?」
「逆?」
「そう、ノーバディがエンドレスになる場合だ」
カーズは驚いた表情を隠す事が出来ずにアンセムを見ている。そして聞き入っているジタンや、コード達も驚いていた。
「どれほどの確立でハートレスになるかは分からんが、有り得るのだよ。そしてその循環を見て私は彼等をエンドレスと名づけた」
「ならばノーバディとは何だ。貴様の言うノーバディの真実とは」
怒りのせいか、カーズの声は震えていた。今にもアンセムに闇を放出しようとしているように見えるが辛うじて抑えていると言ったところだろう。
「ソラは闇に染まったがそれでも光を持っていた。光と闇の力を同時に使おうとする者達の所為でな」
突然の話の方向転換によりカーズの闇は一層膨れた。が、アンセムは全く気にせずに話し続ける。
「だが私は密かにソラの心を更に闇に染めようとした。当然ソラの中にある光の力は反発した。とは言えじきに完全に闇に染める事は出来たが、私は遭えてそれをしなかった」
そこでアンセムは一息ついた。カーズを一瞥し、また薄く笑う。
「私は闇でソラを染める中、一箇所の逃げ道を作った」
「逃げ道?」
「そうだ。無の世界と言う名のな」
無の世界と言う単語にカーズを含む全員が反応した。
「どう言う事だ」
低い声でカーズが尋ねた。するとまたアンセムが低く笑い始める。
「無の世界の扉をただ開けるだけならIDは一つだけで十分だ。干渉するには全てが必要だがな。だが、ソラの心、光だけを無の世界に追いやるのは一つだけで十分だ。だが無の世界に入り込んだ光は押し返された。そこで、無の世界は新たな肉体を作り上げ、その光を要れた」
笑う頻度が話す毎に増して行くアンセムに誰もが疑問に思った。だがその中で微小だが冷や汗を流している人物がいた。リクとコードだ。
「気づいたか?その肉体はお前だ、コード。つまりお前は、ソラだ」
この場にいるもの、カーズまでもがコードを見た。どうやらカーズはその事を知ってはいなかったらしい。
「何故、そんな事が」
「私は全ての物は闇から生まれると推測した、いや確信していた。だが事実は違う。全ての物は無から生まれていたのだよ。それと同じようにコードが生まれた。私とて原理は分からないが結果は実に興味深い物だ。何せコード、お前は存在する筈の無い者なのだからな」
「アンセム、まさか」
カーズが先ほどとは違い、勢いが無い口調でアンセムに問うた。アンセムは口の端を吊り上げて笑った後に口を開いた。
「そう、コードこそがノーバディだ」
全員が驚愕に口を開いた。中でもコードは目を見開き、アンセムを見つめている。
「アンセム、貴様の」
「私の目的はお前とほぼ同じだ。受け取れ。ID【止まらない悲しみ】、【湧き出る勇気】、【裏にある嫉妬】だ」
アンセムの手から三つのハートの形をした何かが出て、カーズがそれらを受け取った。三つのハートの色は全て違う色だ。
「カイリ?」
一つのハートを見てコードが呟いた。
「そう、その中の一つ、【止まらない悲しみ】はカイリが持っていたものだ。感謝しておこう」
「私の?」
「そうだ、ディスティニーアイランドが崩壊する前にな」
カイリは自分がソラを探しに行く決意をした時の事を思い出した。
「まさか、あの時の」
「そうだ。とは言えあの時お前からIDが出てくるのは偶然だった。さて、カーズ、こちらの仕事を早めに一つ終わらせてしまおう」
「何?アンセム、貴様一体」
カーズが何かを問い掛ける前に誰かが悲鳴を上げた。カーズは悲鳴がした方を見ると、ティーダ、ワッカ、セルフィが闇に包まれていた。闇は三人を包み込み、消えた時には三人ともいなかった。
「アンセム、何をした」
キーブレードを出しながらリクが低い声で尋ねる。殺気がアンセムに向けられるがアンセムは笑っているだけでリク険悪な表情も意に介しないようだ。
「なに、彼等に私達の仕事を手伝って貰うだけだ」
「仕事?」
「アンセム!」
リクの質問はカーズの怒号で掻き消された。リクがカーズの視線を辿ると上の方に闇が現れており、その中でティーダ達三人、いや六人が移されている。
「あれは」
リクは小さく呟くと共に驚きで目を見開いた。
「アンセム!貴様一体何を考えている!」
「王様」
「ドナルド、グーフィ」
意見、動物達のような姿をした者達がティーダ達と対峙している。その変わった風貌はコード達は忘れる筈がなかった。かつてのソラの仲間のドナルドとグーフィ。そして世界を統べる、王。
「心配するな。私は最後の一つのIDを取ろうとしているだけだ」
「何?」
コード達が驚きで呆けている間にアンセムはカーズと話している。ジタンも以前あった事のある王様の方へ注目している。
「言った筈だ。私とお前の目的はほぼ同じだとな」
「待て!アンセム!」
低い笑い声を残しながらアンセムは闇に消えた。カーズは怒りか、それともこの状況のせいか、また震えていた。
「奴は、一体」
下唇を強く噛み、怒りが見える。だが、少しすると自分の周りに闇を纏め、アンセムと同じように消えた。未だ呆然とする室内の者達を残して。