なあ、お前は不安を感じた事があるか?
不安?一杯あるよ。
どんな事だ?
え〜と。迷子になって無事に家に帰れるかとか。家に帰ったらお菓子は残っているか、とか。
……お前に聞いた俺が馬鹿だった。
今更?
認めるなよ。
その言葉、そっくりそのまま君に返すよ。ところで君はどう?
俺は、一人になった時かな?
じゃあ何で君は此処に一人で来たの?
少し意味が違う。俺が言いたいのは精神的な事だ。
分かんないね。
分からなくて良い。
ENDLESS DARK Second Prologue 3 〜拭いきれぬ不安〜
「これが、光の扉」
「ようやく来たね」
「ソラ、来ちゃ駄目だ」
「何故なんです!王様!」
「誰だ!お前は!」
「もう疲れたんだよ」
「ぐあ!」
「ソラ!逃げて!」
「ドナルド!グーフィー!」
「行け!ネオシャドウ共よ!」
「何で…こんな事に…」
目覚めは最悪だった。昨日までは降っていなかった雨が体全体を濡らし凍えていた。とにかく雨に濡れない所を捜す為にソラは起きあがり歩き始めた。
まだ時間は早いらしく周り暗かった。さらに森の中を彷徨っているというのでさらに暗い気がした。しかしそんな事には馴れたようにソラは森の奥へ奥へと進んで行く。別に奥に行くのが目的な訳ではない。ソラは今逃げているのだ。
「クソ、あれから1年経ったというのにまたあの夢か」
溜息と一緒に言葉を漏らした。もし他の誰かが居ても雨の音で掻き消されるような声であったが。
1年前、それはソラが光りの扉を出現させた時だった。あの時から全ては変わった。ドナルドとグーフィーも、もういない。いないと言っても死んだわけでは無いのだが。とにかく1年前からソラの目的は変わった。今しなくてはいけない事は逃げる事だ。
何故森に居るかと言うと見つかっても逃げ切りやすいからであった。元々島育ちのソラはリクと何度もレース等をし、走る事、周りの物を上手く使う事には馴れている。以前も一度見つかった事もあるがこれまでの経験を生かし、何時も逃げ切っている。
ソラが一歩一歩踏み出すたびに木の枝が折れる音や水溜まりに足を踏み入れる音等が聞こえる。吐息は白く、どの位寒いかを物語っている。なるべく雨が当たらないように進むが天井など存在しない森の中で全く濡れない事など皆無だ。
「キングダムハーツは再び開いた。何とか逃げ切って阻止しないと」
声に出し、改めて決意し、暗い森の中を歩いて行く。薄気味悪い森の中を。黒い影が蠢く森の中を。
「多いな。今までは何とか逃げ切れたけど、もう限界か」
ソラの言葉と共に地面から黒い、何かが現れた。ネオシャドウである。ソラはそれを確認すると手に力を込めた。すると一年前と同じように手が光り輝き光から約束のお守りへと変化した。ソラは約束のお守りをネオシャドウに向け、構えたがネオシャドウは攻撃してくる気配が無かった。ただ、先程から増え続けている。
そのネオシャドウの群れの中から人間の形をした全身――顔や手までも―――真っ黒な男が現れた。そしてソラの前に出て呟いた。
「やっと見つけた」
「…お前、誰だ?」
「力を求める者ですよ」
別の、もう一人の者がソラの前に先程の者の隣に来た。ハートレスと同じ黄色い瞳はソラを見据え、何かを喋ろうとしていた。
「俺を殺しにきたんじゃ無いのか?」
「いいえ。違いますよ」
「寧ろ逆です」
「逆?」
ソラは意味が分からないと心の中で思ったが絶えず警戒を解かないように心がけている。そんなソラにはお構いなしに真っ黒な者は口を開いた。
「お迎えに参りました、我らが主人よ」
「どういう事だ?」
「あなたこそ全てのハートレスの起源なのです」
ソラは信じられないという表情を顔全体で表していた。無理もない。今まで倒してきた者の起源など、信じたくもないだろう。ソラは歯を食いしばり、ギリギリと音がした。先程とは違い憤怒の表情になっている。
「でたらめ言うな!俺はお前等なんかの起源なんかじゃない!」
「勘違いしないで欲しいですね。私達はハートレスではありません。ハートレスは私の後ろで蠢いている奴等ですよ。分かって言っているのならいいのですが」
「そんなのどっちでもいい!俺はお前等なんかの起源じゃない!絶対に!」
「真実に目を傾けなさい。あなたは確かにハートレスの起源ですよ。あなたは自分自身で気付いて無いだけです」
「そう、人の負の感情は大きい光のあなたへ辿り着き、光に近づくほど大きな陰になり、そしてあなたが知らない処でハートレスが生まれる」
「違う!俺は、俺は!」
握りしめている拳から血が出ている。ソラは勿論この全身真っ黒な者の言うことなど信じていない。だがこうまで言われると流石に怒る。と言っても既にソラは怒っているが。
そんな時であった。突如ネオシャドウの群れの向こうの方から声が聞こえた。冷たく、低い声が。ネオシャドウ共はどんどん道を開けていく。そして男が現れた。全身が闇に包まれていて姿は見えないが。
「集へ。力の元へ」
「どうしたんスか!?カイリ!」
ディスティニーアイランド、何時ものように四人は遊んでいた。しかし急にカイリがおどおどし始めたので三人は何事かとカイリを見ていた。それを不思議に思い、ティーダはカイリに何があったのかを聞いた。
「ずっと聞こえていた彼の声が消えたの」
カイリの声は消え入りそうな声であった。顔には不安で一杯である。そもそも彼の声とは一体何なのだろうか。その事についてワッカはカイリに問いかけた。
「彼ってソラの事か?」
「うん、何時も励ましていてくれたのに。さっき、ご免って言ってから全然聞こえなく…」
「だ、大丈夫やって!きっとソラは無事や!」
セルフィが励ましたが、その不安は拭いきれる物では無かった。その後カイリは秘密の場所に籠もってしまった。
三人は顔を見合わせた後そっとしておこうと言う事にし、それぞれの家路についた。
『自分を責めちゃいけないよ、リク』
別れ際の王様の一言が脳裏に浮かんだ。リクは暗闇をひたすら歩き続けている。しかし光の扉は見つからず、途方に暮れていた。
「くそ!一体光の扉は何処に!……王様と別れてから大分たつが、無事だろうか」
返事は返って来ないのを知っていながら自分の問いを声に出した。真っ暗な闇のなか。心細いがリクはその事は気にせずに歩き続ける。
「王様……ソラ、無事でいろよ」
リクは最後の方の口調を強めながらまたひたすら歩き出した。
物語は動き始める。そう、ゆっくりと。