泣いた事はあるよね?

……無い。

嘘つき。

あ?

父親が死んだとき、母親が死んだとき泣いてたでしょ。

………。

なにより友達と敵対したときは内心凄く悲しかったんじゃない?

何故そんな事が分かる。

さあ、ご想像にお任せするよ。


ENDLESS DARK Start Off 1 〜悲しみと決意〜


まるで暗闇の中とは思えない程のネオンがある。黒いレインコートに身を包んだ少年がその都市を歩いている。奇妙なのはその少年一人しか歩いていない事だ。

少年はその事は気にせずに水たまりをパシャパシャと音を立てながら都市を通過しようとしている。周りは雨の音と少年が歩く音以外何も聞こえなかった。

少年が都市の中心位置にあたる場所に着くと、急に少年の周りに黒い影が現れた。ハートレス、ネオシャドウであった。ネオシャドウは少年一人の為だけに無限にいるように出現している。すでに中心位置はネオシャドウで埋め尽くされている。

少年は突如両手を広げた。そして手が光ったと同時に光が大きい鍵の形を象った。そしてその光は消え、手には二本の剣、キーブレードが握られている。片方は約束のお守り、片方は過ぎ去りし思い出。両方ともソラが使用していたキーブレードである。

少年はキーブレードを交差させた。交差させると同時に少年の周りにハートに似通った紋章が現れた。それを合図にネオシャドウは一気に少年に襲いかかった。

ネオシャドウが紋章部分に触れた時、一瞬にしてネオシャドウが消滅した。しかし他のネオシャドウは恐れを知らないのか、次々と襲いかかって来る。その内紋章の力も無くなっていき、少しづつ少年へ近づいて来た。

少年は大分近づいてきたネオシャドウを見据え、遂に限界だと悟ったのか、紋章を消し、持っているキーブレードで叩き斬り始める。

少年は襲いかかってくるネオシャドウを次々と切り捨てていくが、一向に数が減る気配が無い。雨で流されていて分からないが、少年は冷や汗を掻いている。どんなに相手よりも強くても体力という物が有る限り絶対に勝てるとは言い切れないからだ。

ふと、少年は戦闘中にも関わらず上を見上げた。とても高い高層ビルの上に誰かが少年を見下ろしている。ビルの上にいる誰かも少年だった。下で戦っている少年同様レインコートに身を包んでいる。フードからは銀髪が見え隠れしている。

突如、銀髪の少年がビルから飛び降りた。下に居る少年は逆に一気にビルを駆け上がった。とても人間とは思えない芸当だ。

少年と銀髪の少年がすれ違う少し前、銀髪の少年の手が突如光、キーブレードが現れた。それと同時に少年の手から過ぎ去りし思い出が消えていた。その事に少年はとても驚いた。そして瞬時にこの銀髪の少年は下にいるネオシャドウと戦おうとしている事に気付いた。

「やれるか?この数」
「さあな」

すれ違い様に酷く曖昧な答えが返ってきた。しかし先程少年が戦っているのを見ていたにも関わらず降りてきたのだから相当自信があるのだろうと少年は勝手に決めつけた。

二人の少年がそれぞれビルの頂上にたどり着くのは、地面に降り立つのは同時だった。少年が都市を見渡すと既に黒一色に染まっている。銀髪の少年は果たしてこの数に本当に勝てるのだろうかと心配しながらもまた銀髪の少年を見た。

銀髪の少年は一振りでネオシャドウを五匹以上は切り捨てていた。その実力に少年は感心しながらも驚いていた。どんどん切り捨て、そしてまた襲って来るの繰り返しである。

ある程度体力が回復した少年は再度ビルから降り立った。重力に身を任せ、どんどん落ちる速度が加速して行く。落ちる寸前にビルを蹴り最小限に衝撃を抑え、着地した。そのままキーブレードを取り出し、銀髪の少年と共に戦い始める。

何分間戦っているであろうか。ネオシャドウの数は一向に減っていく気配が無い。ただ数と自分達の疲労が増えるばかりである。銀髪の少年はそれ程疲れているようでは無いが、息切れをしている。

―――突然だ。本当に突然だ。衝撃波がネオシャドウを襲い、都市中にいるネオシャドウを消し飛ばしたのだ。あの街全体に蠢いている漆黒の影が一瞬にして消えてしまったのだ。

何事かと思い回りを見渡すが特に変わった物は無かった。まさかと思い少年は銀髪の少年を見たが、銀髪の少年も見に覚えが無いらしく少年同様周りを見渡し、そして少年と目が合った。二人は分からないという表情をし、周りに警戒しながら近づいた。

近づいて言葉を交わそうとした瞬間だった。突如銀髪の少年が道路の遠くの方を凝視した。少年はそれにつられて銀髪の少年が向いている方を見る。視線の先には人影がうっすらと見えるのが分かる。こっちに来るのが分かったので反射的にキーブレードを構える。銀髪の少年も同様に警戒しているようであった。

ようやく男が少年達の元へたどり着いた。男も少年同様にコートを着ている。周りからみると三人でコートを着ている怪しい人達と思われそうである。

「まだ出ていなかったのか、リク」
「……誰だ。お前は。何故俺の名前を知っている」

銀髪の少年、リクは警戒しながら男に聞いた。少年は何かが引っかかっている。リクという名前に聞き覚えがあるような無いようなと曖昧な考えが脳裏によぎる。

「私を忘れたか。リク」

そう言いながら男はゆっくりとフードを脱いだ。リクは男の顔を目前にし、驚くと同時に男に向かってキーブレードを振り下ろした。簡単に男はリクの攻撃を避けたが。少年は何事かと二人を交互に見た。

「何故お前が此処にいる。アンセム!」
「伝えに来ただけだ。早く動かなければ世界は滅びる。それだけだ」

それを言うと同時に男、アンセムは消えた。去り際にリクにも少年にも聞こえないように

「どちらにしろ滅びるが。次はカイリだな」

と言い残して。




秘密の場所でカイリは座っていた。ソラの声が聞こえないと言ってから丁度一週間が経とうとしている。今だ立ち直れずにいた。外ではカイリを心配しながらも他の三人は遊んでいる。

ソラの事を考えている内にカイリの目から水が頬を伝った。涙である。

それと同時にカイリの体が光だした。しかし不思議とカイリはその事に気付いた様子はない。そしてカイリの体からピンク色のハートが出てきた。何処か悲しげな感じがするハートだが。

「丁度良い。ハート・フォーワード

突如男の声が聞こえたのでカイリは咄嗟に後ろを振り向いた。振り向くと男が手を前にかざした状態で立っていた。不審に思い警戒しながらもカイリは男が何者かを聞いた。

「あなたは、誰?」
「何時まで落ち込んでいるつもりだ?そんな暇があるならさっさとソラを探しに行け」

カイリは訳が分からなくなった。何故この男はソラの事を知っているのか。ソラを探しに行けと言うことはソラは無事なのだろうか。そして一体この男は誰なのだろうか。

カイリは俯いていた顔を上げ、先程考えた疑問を男に言おうとしたが既に男の姿はそこに無かった。そしてその直後、地面が急に揺れだした。

何事かと思いカイリは急いで秘密の場所から出た。外は昼間にも関わらず暗い。思わず上を見ると以前ディスティニーアイランドが滅んだ時と同じような闇の塊が浮いていた。周りの物はどんどん吸い寄せられていく。

―――何時まで落ち込んでいるつもりだ?そんな暇があるならさっさとソラを探しに行け―――

先程の男の言葉が脳裏に横切った。カイリは決心し目を真っ直ぐ闇の塊に向けた。そのあと思いっきり地面を蹴り、跳躍する。蹴った後、着地を…しなかった。そのままカイリの体は闇の球体に引き寄せられ、闇の中に消えた。カイリが消える少し前、ティーダ達も同様に闇の中に消えた。