思い出って大切なのかな。

大切だ。人は過去の失敗により何をどうすれば失敗しないかを学ぶ。

何か違うような気がするのは気のせいかな?

気のせいだ。

そうかなぁ。


ENDLESS DARK Start Off 2 〜記憶喪失の少年〜


何時の間にか雨はやんでいた。雨がやむと聞こえる音は水滴が水たまりに落ちる音以外何もなかった。風の音さえも聞こえない。が、都市の中心ではもう一つ別の音があった。人の呼吸の音。吸って吐く呼吸の音が都市の中心だけで聞こえる。

今、リクと少年は先程アンセムがいた場所を凝視している。しかし何故見ているのかは、自分自身でも分かっていない。その内、無意味な事を完全に理解し、二人は同時に向き合った。

リクの方は何故か目隠しをしている。先程少年はビルの上に居たのを見ただけなので目隠しをしている事は分からなかった。目隠しをしているが、顔つきはしっかりしているのが分かる。フードからは銀髪が見え隠れしている。

「お前は誰だ?」

唐突にリクが質問した。少年は突然の質問に困っている。別に自分の最低限の事を話せば良いことなのに口を開けたり閉じたりしている。リクは何も言わずにただ少年の言葉を待っている。そして数秒経った時に少年は覚悟を決めたのか、ゆっくりと口を開けた。

「まず先にお互いのフードを外さない?」
「……良いだろう」

二人は一緒にフードを外した。銀髪の少年は、長い銀髪で顔は凛々しい。そしてもう一人の少年は茶髪のツンツン頭で顔は少し幼いような顔つきだった。透き通ったような青い瞳。リクはその顔を見て一人の少年を思い出した。そう、とても似ているのだ。彼の幼なじみに。

「お前、ソラ?」
「違う、僕はコード」

少年、コードは語尾に小さく「多分ね」と付け足した。リクはその小さい声を正確に聞き取っていた。その事が気になるのか、またはソラと似ているのが気になるのか、リクはコードの顔をまじまじと見ている。その事が気に障ったのかコードは嫌そうな顔をしている。

「何?僕の顔に何か付いてるの?」
「いや、それより多分とはどういう事だ?」

コードはその質問に驚いている。最後の言葉は聞こえないと思っていたからだ。しかし聞こえたのは事実、コードはその意味を教える事にした。

「僕はね、気付いたらこの都市の近くに寝ていたんだ」
「気付いたら?どういう意味だ?」
「つまりね、記憶が無いんだ。何で名前を知っているかは分からない。いや、それ以前に名前が合っているかすら分からないんだ」
「成る程、だから多分と言ったのか」

周りには二人の声だけが響き渡る中、リクは納得したように頷いた。コードは自分の置かれている状況を理解するように上を向いたり下を向いたりとしている。そして思い出したようにまた口を開いた。

「僕の頭に残っている事は、ソラに会う事」
「ソラの居場所を知っているのか!?」

ソラという言葉にリクは敏感に反応した。急に怒鳴ると同時にコードの肩を掴み揺さぶる。コードは続きを言おうとするが意味不明な言葉だけが口から出てくる。

「ソラは何処だ」
「ちょ、ちょっと!」

コードが大声を出すと、リクはハッとしたようにコードを離した。コードは揺さぶられる事から解放され二、三回咳き込んだ。そして視線をリクに戻し、息を一度吸ってから話しだした。

「僕の頭に残っている事はソラに会う事と、何かを守らなければいけないという事。ソラに会うと言っても正確にはソラを捜さなければいけないと言う感じかな?何かって言うのは曖昧で良く分からない」
「そうか」

溜息と同時にリクは言葉を発した。

「ところで何故キーブレードを持っている。しかも二つともソラが使っていた物だ」

リクは右手に過ぎ去りし思い出を出しながら質問した。コードはまた困ったような顔をしている。

「分からないけど起きた時に両手に握っていたんだ。さっきの戦闘は、何となく感覚が残っていたんだ。……戦いの」

コードは自分の手を見ながら溜息をついた。そして何気なくキーブレード、約束のお守りを右手に出した。それと同時に約束のお守りと過ぎ去りし思い出が輝きだした。その光は二人の前に移動し、扉の形を形成した。徐々に光は消えていき、大きい、茶色の扉になった。

二人はキョトンとした表情でその扉を見た、そして見つめ合い、また扉を見た。突然の事に驚いたようだった。二人は顔を見合わせ、頷くと扉を開けた。開けると、そこには街があるのが見える。二人は迷わず扉を入った。懐かしい感じを携えながら。




気付いたら其処は道の上であった。赤毛の少女、カイリはゆっくりと身を起こし、周りを確認する。規則的に設置してある街灯がまず目に入った。隣には水路の様な物があり、それを目で辿っていくと、奥に続く通路穴があった。他の場所に目を傾けると木箱が積んであるのが見える。

カイリは此処を知っていた。いや、知っている。此処は間違いなくトラヴァースタウンだ。トラヴァースタウンは一度全ての町並みを見たことがあるので直ぐに思い出した。

カイリは兎に角知っている人を捜す為に起きあがる事にしたが、頭を打ったのか、立ち上がる時に目眩がした。そして目眩と同時にカイリの目の前に黒い影が現れた。余程強く打ったのかと思いながらも冷や汗をかき始めた。実際黒い影は頭を打ったせいで見た幻では無いのは知っているが、まともに動けない状態の今は幻と思いたかった。

突如、黒い影、シャドウはカイリに飛びかかってきた。咄嗟にカイリは蹲るが、痛みは無い。代わりに何かを斬る音と人が地面に着地するような音が聞こえた。恐る恐る顔を上げると見覚えのある姿が目に入った。そして相手が何かを言う前に叫んだ。

「レオンさん!」
「……カイリか?何で此処にいる。いや、後で聞こう。今、またハートレスが暴れ出したから此処も危険だ」
「ハートレスが?何でですか?」
「その説明も後だ。取りあえず付いて来い」

カイリは頷くと立ち上がった。今度は目眩も何もなく立ち上がれたのでほっとする。レオンはカイリが立ち上がったのを確認するとカイリに背を向けて歩き出した。

ゆっくりと二番街へ通じる扉を開けると二番街の広場が目に入った。しかしそこには何時もは無い物が中央にある。それは―――