再会って、嬉しいよね。会いたい人とまた会えるんだから。

俺には会いたい人など居ない。

何で?

その会いたい人が変わり果てていたら?そんなのはご免だ。

なら戻してやればいいじゃん。

簡単に言うな。


ENDLESS DARK Start Off 3 〜再会〜


扉から二人の少年が現れた。どちらもカイリには見覚えがある姿だ。レインコートに身を包んでいるが、一人は紛れもなくリク。そしてもう一人は待ちわびていたあのソラ。では無い。実際カイリはソラと勘違いしているが、あれはコードである。そうとも知らずに顔一杯に笑みを浮かべた。

カイリは二人を見た瞬間に走りだしていた。ずっと待っていた二人、その二人と遂に会えるのだから。

レオンは状況整理で立ち止まっている。しかし暫くするとレオンもゆっくりとカイリに続き歩き出した。あれは本当にソラなのかと疑問を抱きながら。

扉から出て周りを見渡すとやはり何時か見た様な町並みが広がっている。必死に思い出そうとするが、何かが拒絶する。心が思い出そうとしない。何故と思いながらも必死に思い出そうと周りを何回も見渡す。すると噴水の隣の扉から見たことがある赤毛の少女が走って来る。カイリだ。何故か理解するのに時間が掛かったが、あれはカイリだ。思わず笑みがこぼれるが、顔一杯の笑みには何故かならなかった。暫くしてカイリは自分達の元へ辿り着いた。

扉から出てきて周りを見渡すが、何かが引っかかっている。その何かは分からない。暫く町並みを見渡し記憶を探るが、一向に記憶の手がかりになるような物は目に入って来ない。隣ではリクが笑みを浮かべている。何事かと思いリクの視線―――目隠しをしているので分からないが、おそらく向いている方―――を目で追うと、赤毛の少女が走ってくる。見たことはある。そんな気がする。しかし何も思い出せない。暫くして少女は自分達の元へ辿り着いた。

「ソラ!リク!」
「カイリ!久しぶりだな!」

カイリは二人の元へ着くなり両名の名を呼んだ。その声は弾んでいる様な気がする。

「ソラ、じゃないよ。僕はコード」
「え?ソラじゃないの?」
「どうやらそうらしい。良く似ているけどな」

カイリはソラじゃないと聞いた瞬間表情が少し暗くなった。リクが居ることが唯一の支えであろう。

「そっか。ソラじゃないんだ。でもリクに会えたんだからいつか会えるよね!」
「ああ。絶対会えるさ。もし会えなくても俺が見つけて無理矢理連れて帰るさ」

無理矢理笑顔に戻し、なるべく元気に振る舞った。しかしリクの言葉で不安がよぎった。連れて帰る、それはもしかしてまた何処かに行ってしまうのでは無いか。そんな不安が。

「話しを割ってすまないが、お前はソラでは無いんだな?」
「そうです。僕はコード。あなたは?」

今まで立っていただけのレオンが話しに割って入った。そしてソラではないと聞くと顔を手で埋めて考え始めた。自分自身の事を聞かれた事に気付いていないようだ。見るに見かねたカイリが此処の説明とレオンの事を話した。

「えっとね、此処はトラヴァースタウンって言うの。それからこの人はレオンさんだよ」

今居る町並みの説明とレオンの事を少しばかり聞く事は出来た。

コードには依然として何かが引っかかっている。何故か全てが懐かしく思えるのだ。その懐かしさは何かは分からないが。何せ記憶が無く、此処に来たことがあるかさえ定かでは無いのだから。

一方リクはカイリの説明を聞き、何故思い出す事を拒絶したのかが分かった。此処は魔女マレフィセントと共に来た街だ。更に此処でソラに会えたのに、皮肉めいた言葉を言った後、ソラに何も言わずに去ってしまった。遠回しな理由だが、最終的には闇側に付いていた時の事を思い出したく無かったのだ。

「此処に居てもしょうがないな。エアリス達の所に行くか」

レオンは急にそう言い、三人を三番街の空き屋へ促した。

空き屋に入るとそこにはエアリス、ユフィ、シド、クラウドが居た。四人はコードを見るなり近寄って来た。が、レオンと同じでソラでは無いと聞かされると考え込んでしまった。

「レオンさんもそうだったけど、何を考えているのですか?」
「ん?実はな、ソラがキングダムハーツを閉じた後、何事も無く俺達はホロウバスティオンに住んで居たんだ。だが。以前、急にハートレスが現れた。いや、ハートレスは大した問題では無かった。問題はノーバディだ」
「ノーバディ?存在しない者?」
「そう、あいつ等はそう言った。体を持たない魂だけの者達、と。そしてまたホロウバスティオンは乗っ取られた。俺達は気付いた時にはまた此処に居た」

余程此処に縁があるのだろう。しかしこれだけ説明されてもソラが何処に関係あるのか分からない。その事を聞くと、レオンは表情を暗くしながら言った。

「奴等は言っていた。ソラ様の命令と」
「え?」

その事でカイリ、リクは勿論の事、驚愕した。ホロウバスティオンを滅ぼした張本人がソラ。意味が分からないと言った表情を浮かべている。しかしコードは何故か予測していた出来事の様に表情を驚いたではなく使命感に溢れた顔をしている。何故そんな表情をしているのかは自分でも分かってはいないようだが。

「でも、只名前が同じだけって言うのもあり得るだろ」

信じたく無い気持ちが一杯で出てきた一言。いや、只単にそう信じたいだけだろう。カイリも同じ気持ちだった。

「その話しはもう止めよう。もう一つ奴等が言っていた言葉だが、十三機関。何のことだか分かるか?シドが偶然聞き取ったらしいんだが」

レオンはシドを一瞥しながら十三機関という不明な言葉の意味を聞いた。当然島にずっと居たカイリに分かる訳が無い。そしてリクも同様に分からないようだった。

「……十三機関、人の心に宿りし十三個の感情が具現化した物。人はそれぞれ宿しているが、その感情が何処の誰よりも強くなったときに人の体から具現化し、ほんの数十秒だけ現れる。僕が何を守らなくてはいけないのかを思い出したよ。思い出したのはそれだけだけどね」

コードはそれだけ言うと皆を見回した。思った通り良く分からないという様な表情だ。当たり前だろう。何せ記憶喪失の少年がそんな事を知っているとは思わないであろう。

これ以上の情報は無いとレオンに告げられ、次の目的地の事を考え始めた。先程の扉はもしかしたら何かしら自分に関係あるのかもしれないと思い、リクにその事を話した。

「そうか。お前、ソラを捜すんだよな。だったら俺も行こう」

急な提案にコードとカイリは驚いた。コードにとっては寧ろ都合の良いことなのだが、カイリにとって、また待つだけなのは辛い事だ。

そんなのは嫌だ。カイリは直ぐに思った。ならばどうすれば待たずにすむか。答えは一つしかない。

「リク。私も行くよ」
「カイリ?……駄目だ。危険すぎる。ハートレスに加えてノーバディも居るんだ」
「でも、もう待ってるだけなのは嫌!今度は私も戦う!」

真っ直ぐな瞳。即座に意志の強さをコードは読みとった。それと同時にどんなに説得しても絶対着いてくるだろうと直感した。溜息を付き、口論を続けているリクの肩に手を乗せると、直ぐにリクは振り向いた。

「リク、連れて行こう。ちょっとやそっとでは折れないよ」

リクはその言葉を聞き、深く溜息をついた。カイリが折れる前に自分が折れるとは思わなかったのかもしれない。

レオン達に分かれを告げると三人は外に出た。そしてコードとリクがそれぞれキーブレードを出し、交差させると、先程のように扉が現れた。扉の向こうは―――ジャングル