裏切られたら悲しいよね。

突然何だ。

その裏切った人が変わっていたら元に戻せると思う?

……ああ、多分な。

曖昧だねぇ。

まだ時間が掛かりそうだからな。

ああ、裏切られてんのね。

言うな。


ENDLESS DARK Betrayal 1 〜変貌〜


そこは緑が生い茂るジャングル、では無かった。木々、湖が枯れ、そらはどんよりと曇っている。更にジャングルには関係無いが、テントはボロボロで、周りの物は撒き散らされている。

コードには何故か此処がディープジャングルだと分かった。何故分かるのかは分からないようだが。しかし此処を見た瞬間少し、何かを思い出した。思い出した物は野生児、カメレオン、ゴリラ、そして誰かが喧嘩している場面。それぞれコードには良く分からないようだが、多少なりとも記憶が戻っているようだ。

「一体何があったんだ?此処は」
「さあ、ね。ターザンなら分かるかな?」
「ターザン?って誰?」

カイリの質問に自分で首を傾げた。勝手に出てきた言葉、ターザンとは誰なのだろうか。考えても分からなかったので結局簡単に自分の記憶に関係する人物と決めつけた。

其処にじっとしていても何も起こらないので三人は取りあえず歩いてどんな所かを把握する事にした。暫く歩くと竹林が周りに生い茂り、岩を中心に何も無い所に来ていた。何かの気配がするが、何かは分からなかった。分かることは、少し邪悪と言うか、闇と言うかそのような雰囲気を感じた。

と、そこに一人の少年が現れた。茶髪のツンツン頭で、妙にチャックが多い服。三人はその姿に見覚えがあった。

「あれ?リク?カイリじゃないか!?」
「ソラ!?」

そうソラである。その姿は紛れも無くソラだ。表情豊かな明るい顔、真っ直ぐな青い瞳。以前より少し身長が伸びた気もするが。だが見間違えるはず無かった。彼は間違い無くソラだ。

ソラは二人の名を呼ぶと急いでこちらに走って来た。コードはカイリを一瞥すると表情はとても嬉しそうである。コードも目的がソラを捜すと言う事なので嬉しい、筈だ。嬉しい筈なのに、何か違和感がある。胸の奥底に何かが引っかかっている。そんな事を考えている内にソラはこちらに到着していた。

「カイリ!リク!久しぶりだな!元気だった!?でも良かった〜!光の扉開けたら王様しかいないからさ!とこれで、こいつ誰?」

色々な事を一遍に言い切った。最後にレインコートを着た少しばかり怪しい男、つまりコードを指さしながら誰かを聞いた。

「ソラ!王様は無事なのか?」
「ん?ああ!扉から出たら元気そうだったよ!その後ドナルドとグーフィーも一緒に帰ったよ。そんな事より、無事で良かった!」

そう言いながらソラはリクに近寄った。とても無邪気な、それでいて何処か邪悪な笑みを浮かべながら。

「!!ソラ!?何…を」
「本当に無事で良かったよ。…リク。でもさようなら」

リクの腹部にはナイフが突き刺さっていた。ナイフに血が伝わり、血が落ち、地面に血が溜まっていく。そしてそのままリクは仰向けに倒れた。

ソラは先程から全く表情を変えていない。いや少し変わっている。先程よりも歪んだ笑みを浮かべている。その後急に手の回りに闇が収束し、闇から一本の剣が出てきた。その剣はソード・オブ・ドリームに酷似している。そのまま振り上げ、倒れているリクに振り下ろした。

コードはその少し前に危険を察知し、光の中からキーブレード、約束のお守りを取り出し、ソラの剣を受け止めた。

「アハハ!駄目じゃんかリク。レオンにホロウバスティオンを滅ぼしたのが俺だって聞いたんだろ?少しは疑えって」
「ソラ!一体どう言う事なの!?何でリクを!」
「ん〜。今は言えないな。そうだ、カイリ。プレゼントがあるんだ」

そう言うとソラは一端コードから離れ、少し引いた。その後ズボンのポケットを探り出した。数秒すると見つかったようで何かを取り出した。それは、星形の割れた貝。ソラはそれをカイリに投げてよこした。

「プレゼントって言うより返すって言ったほうが適切かな?」
「これは。私が作った、お守……り?」
「当たり!そんな物もう要らないから半分に割っておいたよ」

自然とカイリの目から涙がこぼれた。当たり前だ。筏で出発する前。三人が分かれてもまた会えるように想いを込めたお守りが、その三人の内の一人、今まで一番会いたかった人に壊されたのだ。カイリはそのまま崩れ落ちた。

「ソラ!一体何故こんな事を!」
「いや、だからお前誰だよ」
「質問に答えろ」

コードは低く唸りながらソラに問いだした。その言葉には多少ながら殺気が籠もっている。ソラはその殺気に態とらしく震えた。まるでそんな物がどうしたの?とでも言うように。

「さっきも言ったけど今は言えないな。さ!次はお前が答える番!お前は誰だ?」
「……僕はコード。質問を変えるよ。何故此処に来たんだ」

ソラはその質問を待っていたように微笑んだ。半分皮肉が籠もっているのがコードには直ぐ分かった。ソラは剣を下ろし、笑みを浮かべたまま口を開いた。

「俺は十三機関を取りに来たのさ。わざわざターザンをおびき寄せて目の前でジェーンを殺してやったよ。そしたら案の定、負の十三機関、ID名【覚える怒り】の入手に成功したよ。その後勿論ターザンも殺したよ。悲痛な叫びを上げながら死んでくれたよ。」

一言一言に皮肉が籠もっている。コードはそれに気付いているので尚更腹が立った。そして同時に思った。何故自分はこんな奴を捜していたのだろうかと。

コードは約束のお守りを堅く握りしめた。そこで何故か急に一つの疑問が浮かんだ。コードは約束のお守りを持っている。ではカイリが持っているお守りは何だ?

「ソラ。さっきカイリに渡したお守りは本物か?」
「当たり前だろ?間違い無く本物だ!」
「じゃあこれは何だ?」

コードは自分が持っているお守りをソラに見せた。それを見たソラはハッとした。カイリもコードの言葉を聞き顔を上げた。コードの考え通りならソラが渡したお守りは偽物だ。そしてそれを裏付ける事柄が先程見せたソラの表情だ。

「やっぱりさっきのは偽物何だな?」
「……何だ、お前が持ってたのか。まあいいや。今度は本当に、……割ってやるよ」

最後の言葉と一緒にソラは持っている剣でコードに斬り掛かった。素早いが、コードは咄嗟にガードした。

「このソード・オブ・デストロイでお前を殺してやるよ。と言いたい所だが。このままじゃつまらないな。……うん。これから五分の猶予をやるよ。それでリクの治療をするなり逃げるなりしな。あっ。でも鬼ごっこの方が面白いな。」

ソラは一人で何故か納得している。コードは直ぐにでも斬り掛かりたかったが、先程ソラに言われ、リクの事を思い出した。このままでは命に関わる。

「そうだ、強制的に此処から逃がせばいいんだな。そうと決まれば、来いネオシャドウ」

ソラが言ったと同時にソラの後ろから何十体ものネオシャドウが現れた。

「さあさあ。早く逃げな。五分後に探しに行くから。今逃げないんだったらこの数のネオシャドウが一気にお前を殺すよ?」

コードにとって相手に出来ない数では無いが、リクの命に関わる事だった。無念だが此処は逃げる方が良いだろう。キーブレードを光りに戻し、リクとカイリが居る方に向き直った。

そのままカイリを促しリクを背負い、ソラに背を向け走り出した。

「残り時間四分と三十秒」

死の鬼ごっこが始まった。