強い陽射し、炎天下の空に絶叫が木霊する。それもその筈、ジェットコースターに乗れば大抵の人は叫ぶだろう。

「……何で皆叫ぶんだ?」
「俺が知るか」

叫ばない人もいた。天使 羽留のジェットコースターに乗りながらの冷静な質問に対して和泉 雄飛もまた冷静に返した。そして目の前で叫んでいる二人組みを冷ややかな目で見る。天使と和泉には理解が出来なかった。その二人が何故楽しそうに叫んでいるのかが。

「怖いのか楽しいのかはっきりしろよ」

天使はそう言ったが大抵の人は怖くて楽しいから叫ぶのである。つまりおかしいのは前の二人では無く、当然の如く天使と和泉なのだ。強がりでも無く、天然でここまで冷静なのはかなり珍しいだろう。




「あ〜面白かった」

ジェットコースターの近くにある遊園地特有のレストランの中で夢界 李音は子供のような無邪気な笑顔でそう言った。

「あの一気に下に向かっていくのが良いんだよなぁ。……で、お前等はどうだった?」

木谷 海晴はこれまた夢界と同じく笑顔で感想を言う。そして目の前でつまらなそうにしている二人に何気なく話しを振る。

「何で楽しいのか良く分からない」
「どうでも良い」

夢界と木谷は何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれないと思った。当の本人達、天使はアイスティーを飲み、和泉は明後日の方向を向きながら呆けている。

「キ、キミ達ねぇ。もっと楽しまないと駄目でしょ!何の為に遊園地に来たの!」

思わずと言った具合に怒鳴る夢界。そんな夢界を見ているにも関わらず二人は相変わらず先程と同じ行動をしている。

「割引券の期限が今日で勿体無かったからだろ」
「誘われたから来ただけだ」

テーブルに突っ伏しているのは夢界だけでは無く、木谷も夢界と同じように額をテーブルにつけていた。そして同時に溜息をつき、同時に顔を上げる。

「キミ達馬鹿じゃないの?」
「少なくとも成績は上位に入っている」

天使の言葉に夢界が唸る。夢界も決して成績が悪いわけではないのだが、意味を取り違えている天使に対して唸っていた。

そんな二人を放っておいて、と言うよりも無駄に時間が過ぎそうなので木谷は遊園地のパンフレットに載っている地図を見ていた。先ほどまでの言葉からして天使と和泉はどんなアトラクションに乗っても叫びもしないだろう。ならば、と必然的に彼のターゲットは夢界に移っていく。そして彼は知っている。夢界が心霊現象の事が嫌いだと言う事を。そして彼の目線が地図の上の一箇所に止まる。

そんな木谷の思案も知らずに夢界はいつも背負っているリュックからお菓子を取り出して食べている。何時の間にか天使と夢界の話題は勉強の事に移っていた。それはどちらかと言えば天使が夢界をイジメているとも言えるが。話している内容を聞けばの話だが。

「李音、お前は一応アメリカ人とのハーフなんだからもう少し英語の成績を上げればどうなんだ」
「う、五月蝿いな。何時も言ってるでしょ。ボクは生まれた時から日本にいるから殆ど英語は喋れないの」
「折角なんだから教えて貰っておけば苦労する事も無かったのに」

その言葉に何も言い返せずに唸る。確かに教えて貰う時間は沢山あったが大丈夫だろうと踏んでいたからだ。

「唸るな」
「だってさぁ」
「ガキか」
「な!ボクは16だし子供じゃない!」
「五月蝿いな。そう言う所が子供だって言ってるんだ」

こんな喧騒も毎度の事だったので和泉も木谷も特に気にしてはいない。と言っても誰かが終わらせなければこの口喧嘩は片方が飽きるまでずっとやっていることになる。

「おい、行き先決まったからもうそろそろ止めてくんね?」
「分かった」
「ちょ、まだ話は!」

不満そうな夢界の事は放って置いて各々は荷物を持って立ち上がり、店を出る。夢界は多少不満を呟きながらもちゃんとついてくる。その手は首から下げている青い宝石がついた星型のネックレスをいじっている。見ようによってはイジケているようにも見えなくは無い。

「次はどこに行くんだ?」
「教えない。教えてもお前に言った所でつまらない」

何だそれはと心の中で思いながらも天使は黙って着いて行く。偶に後ろの夢界がちゃんと着いてきているかを確認しながら。遊園地のような賑わっているところだといくら大人でも逸れてしまえば探し出すのは難しい。

しばらく歩いていると夢界の表情が変わってきた。どこか、嫌そうな顔をしている。勿論木谷は何故表情が変わってきたかを知っている。

「ね、ねぇ、もしかして乗るのってあのメリーゴーランド?」
「違う」
「じゃ、じゃあさ、あっちのジェットコースター?」
「あれは前に乗っただろ」
「じゃ、じゃあ、え〜っと」

夢界は必死に何かを探しているが、この場所から見えるアトラクションは今の二つと、目の前に聳えるお化け屋敷だけだ。一応後ろの方に観覧車も見えるがそこに行くには戻る事になるので対象にはならない。

「分かってるくせに。俺はお前のお化け嫌いを治してやろうと思って」
「う、嘘つき。ただ面白がってるだけのくせに」
「そうとも言うな。それよりさっさと行こうぜ」

軽く言うが夢界は本当にお化けやその類が嫌いだ。そしてそれを知っているが為に木谷はここを選んだのだが。とにかく夢界は絶対にここには入りたくは無かった。

「ねえ、並んでるしさ、止めない?」
「止めない」
「じゃあ、後で来るとか」
「今入りたい」
「ボクだけ待ってちゃ駄目?」
「駄目」

必死に入らないようにするが全て駄目出しされた。他に言い訳を考えようと唸るがいい考えは浮ばない。そして時間が経てば経つほど、当たり前だが順番が回ってくることになる。

「李音」
「何?羽留」
「諦めろ」
「うぅ。誰も味方してくれない」

味方してくれないのは当たり前と言えば当たり前なのだが。そもそも立案者は木谷であり、和泉はやる気なし。目的地がこれといって無い天使もどこでもいいからだ。

ぞくぞくと中に入っていき、遂に夢界達は後三人が前にいるだけで、お化け屋敷の入り口近くに迫っている。遂に諦めたのか、それとも隙を探して抜け出そうとしているか分からないが夢界はがっくりと肩を落としている。恐らく前者だろう。

そして前の三人もいなくなり、夢界達も入る事になった。夢界は入っていきなり出たくなってきた。お化け屋敷と分かっている上に、入った所でいきなり明かりが少なく、ほぼ真っ暗に近いからだ。それはお化け屋敷では当然の事だが。

「ほれ、さっさと行くぞ。出たいんだろ?」

木谷が悪戯っぽく夢界を見る。多少恨めしい目では見ているが、夢界は素直に頷いた。出たいだろと聞く前に入らせるなと思いながら。

歩いている途中、やはり不安なのか、夢界は和泉にくっついて歩いている。木谷と天使にくっつかないのは、木谷にくっつくのは何だか癪で、天使の場合はくっつくなと取り付く島も無く断られるからだ。

木谷はとことん夢界をイジメるつもりのようで、自分と天使を先頭に行かせずに、夢界がくっついて歩いている和泉を先頭に行かせている。そしてやはり恨めしそうな目で夢界が木谷を睨むが、木谷は口笛を吹きながらそっぽを向く。

夢界にとってはそれが不幸だった。後ろを向いていたためにいきなり出た白い煙とその音、更に骸骨に驚き、叫び声を上げる。

「ビ、ビックリした」
「ははは、お前驚きすぎ」

夢界は既に涙目になっていた。しかしその様子が面白いのか、木谷は笑っている。恐らく夢界は此処暫くの間は木谷を恨めしそうな目で見つづけるだろう。

「ゆ、雄飛、もうちょっと歩くスピード上げて」

恐らくは早く出たい為だろう。しかし和泉はその言葉を鼻で笑い飛ばした。

「何で俺がお前の為に歩調を変えなければいけないんだ」
「いや、確かにそうだけどさ」

歩いていると比較的大きい場所に出る。そこは墓だった。一目見れば全てハリボテだと分かるが、暗さと、魔女のような笑い声、そして浮遊しているように見せているカボチャのお化けさえ無ければ夢界も普通にスルー出来ただろう。

その部屋の中間位の時だ。上から無数になにかが落ちて来て、そして夢界達の目の前で止まった。その事でまた夢界は声を上げた。

そしてそれが蜘蛛のハリボテだと確認出来たところでもう一度叫んだ。余りにもその蜘蛛のハリボテがリアルに出来ていて気持ち悪かったからだ。

「気持ち悪い〜。もう嫌だ」
「早いな」

まだ一つ目の通路を通って一つ目の部屋に来ただけだった。それでも夢界にとっては嫌なのだろう。

「ほれ、さっさと行くぞ」
「それ、さっきも言ってた」
「ああ、すまん。余りにも面白くて」

木谷を睨む。が木谷は悪びれもせずに笑う。隣では天使が周りを見渡していた。一体なにが楽しいのだろうかと考えながら。

次に出た部屋には一本吊り橋があり、周りは闇夜に聳える一つの城が描かれてある。特に怖い部分はなさそうだったが、下から何かの音が聞こえてくるから直ぐに下に何があるか分かる。

夢界は出来るだけ下を見ないようにした。何となく、下に何かがある、またはいるのが分かっているからだ。しかし木谷は夢界の頭を下に下げて見せる。

下では骸骨や狼男などが夢界を見上げていた。ただそれらは少し下にいるために夢界が怖がる事は余り無かった。

「何だ。怖がってて損した」

急に明るくなる夢界。しかしあっと木谷が声を漏らし、前方を指す。ロープが切れそうになっていた。

「ええ!?嘘でしょ!」

そしてロープが切れた。が、ゆっくりと水平に落ちていく。やはり一気に落とす訳にもいかず、機械で両端をずらすしかないのだろう。しかしそれでも緊張しきっている夢界には効果絶大だった。叫びながら必死に和泉にくっついている。

そしてつり橋がある程度下がったところで、下にいた骸骨や狼男が手をつり橋に突き出してくる。その手は夢界達の足に触るか触れないかという所である。そしてそこでまた夢界が叫んだ。くっつかれて迷惑している上に横で五月蝿いので和泉は指で耳栓をしていた。

ちゃんと出口には行けるようになっていたのでそのまま進み、その間最初のような骸骨が出たり、自分達の頭の上に蜘蛛の巣が下がっていた所もあった。

そして次に道は細いが多少広い部屋に出た。真中に、丁度人間の頭の上位の高さに右から左へと繋がる何かがあった。

夢界はそれに釘付けになっている。それもその筈、周りからはただ狼の鳴き声以外には墓しか無く、何かがあるとすればその何かだけだったからだ。

そして丁度その下に来た時だ、一際大きく狼が吠えたかと思ったら右の墓から機会音がして狼男がレールに沿って頭上にくるその時に狼男は手を少し伸ばして夢界を驚かす。本日何度目か分からないが、夢界はまた叫ぶ事になった。

「お前見てると飽きないわ。ホント」
「う、五月蝿いな。怖い物は怖いの。何で皆こんなのが面白いんだ」
「それ、ジェットコースターの何が楽しいのかと聞いてるのと同じだぞ」

ふと、天使がレストランで言っていた事を思いだした。確かに同じだった。夢界はジェットコースターの何が楽しいのか考えてみる。あの落下の時の浮遊感と恐怖感。普段スリルを味わえない分、倍に楽しめる。そしてそれはお化け屋敷にも言えること。つまり。

「怖いから?」
「ま、そうだろ。俺は、お前を見てる方が楽しいけどな」

そう言って木谷は笑う。しかしサドと天使が呟いたのを聞いて途端に笑い声が止んだ。

「羽留、変な事言わないでくれ」
「虐めて楽しいのだから本当の事だろう。ん?そうすると、ジェットコースターの恐怖が楽しいという事は皆マゾという事か?」
「頼むから怖い事いわないでくれ。お化け屋敷よりよっぽど怖い」

確かにそれは怖い、と言うか嫌だろう。遊園地に来る人は大抵はジェットコースターに乗るだろう。つまり世界中の殆どの人がマゾと言う事になる。

「何言ってるの。お化け屋敷の方がよっぽど怖い。早く出よう」

夢界にとってはお化け屋敷の方が怖いらしい。

その後、壁に虫やら何やらの気持ち悪い部類のもののハリボテが張り付いており、夢界は叫んだ。広い部屋で、大量の蝙蝠のハリボテが襲いかかってきて、叫んだ。ある通路で、壁から大量の手が出てきて、叫んだ。とにかくお化け屋敷から出るまでずっと叫んでいた。

「五月蝿いな。っと、出口だ」
「本当!?」

五月蝿くさせたのは誰だと聞くよりも夢界にとっては出口に着けるほうが重要だった。そして木谷が言った通り、目の前には出口が見えていた。

「やった!」

和泉から離れて出口まで一気に駆け出す。後2メートル程で出口、その時だ。出口の横にある壁際の像が動いて夢界を襲う。安心しきっていた夢界は今日一番大きい声で叫んだ。その叫び声が物凄かったのか、動いた象の方が驚いていた。動く象は襲いかかろうとしたところから一歩下がっていたのだ。

「ほほう。驚かそうとする人を驚かすとは中々やるな」
「う、五月蝿い。驚かそうとして驚かした訳じゃないよ」

何となく居心地が悪くなった夢界は早々出口から出て行って、深く深呼吸をした。夢界にとっては久しぶりに外の空気を吸った気分なのだろう。

「ははは、お疲れさん。今回のお詫びに何か奢ってやるよ」
「俺等には?」
「……財布の中身が問題無ければ」

そのまま近くのアイスクリームが売っている所まで行き、ふと、和泉が夢界に疑問を投げかけた。

「李音。今日持ってきたポシェットはどうした」
「へ?ポシェットならここにって、あれ?」

今日、夢界は貴重品をポシェットに入れて来たのだ。リュックだと何かと出しにくいかららしいのだが。

「おいおい。あれの中って無くしちゃいけない物ばかりじゃないか?」
「ああ!家の鍵が!」
「どこまで持ってた?」
「えっと、多分、お化け屋敷に入る前までは持ってた」

その言葉に木谷は何故か溜息を吐いた。無くし物はこの広い園内ではとても見つかり難い。拾ってくれる親切な人もいればそのまま持っていってしまう可能性もある。また、もし誰にも気づかれなかったとしても、動いて向こうからも探してくれない分、特定はしやすいが見つけ難くもあった。

「夢界さん」
「な、何。急に改まって」
「もう一度お化け屋敷に行ってらっしゃい」

そう、先ほどの夢界が言った事が正しければ、今出てきた所で落としたか、お化け屋敷の中で落としたかのどちらかだった。

「ええ!?嫌だよ!誰かついて来てくれるの!?」
「俺は疲れた」
「同じく」
「面倒」

甚く無情な言葉が返ってきて夢界は肩を落とした。本日二度と行くまいと思っていたお化け屋敷にさっそく行く事になったからだ。

「うぅ。分かったよ。行ってくる」
「俺達はこの辺にいるから」
「ついて来てよ」

と言っても返事は期待していなかったらしくさっさと言ってしまった。いつもより元気が無いのは疲労の為だろう。

「雄飛」

突然、木谷が和泉に声を掛けた。

「悪いけど、頼む」

その言葉に、面倒臭そうにしながらも、和泉は立ち上がって、お化け屋敷へと向かった。



そして夢界はまたやって来た。恐怖の館、もといお化け屋敷へと。何故か人は少なくなっていたのですんなりと入れた事が夢界には幸運だった。

二度目ならば多少は大丈夫だろうと踏んでいたが、それは無かった。だが今はどこにどんな仕掛けがあるか知っている夢界は、何故か全てを避けて通ろうとしていた。

最初の骸骨はしゃがんで通り、煙の音にビクリと体を震わせるが直ぐにスルー。次に蜘蛛が落ちてくるのも身を屈めてポシェットを探していて問題無し、音については先ほど煙の音を聞いた時のを参考にして指で耳栓をしている。

そして次の部屋に着いた時だった。夢界は余り見たくない物を見てしまった。吊り橋の下で蠢いている骸骨の一体が夢界のポシェットを持っていたのだ。意を決して、吊り橋が下がり、骸骨が近づいて来た時を狙って、一気にポシェットを奪い取った。

ホッとするのも束の間、次の問題はこのお化け屋敷を出る事だった。戻る事も出来ただろうが、夢界は後ろに人がいる事に気づき、仕方なく前に進む。そして狼男が出てくる部屋に差し掛かった。

上のレールを見ないように身を低くして疾走する。頭上で狼が吠えるのが聞こえた。しかし気にしない。

「おい」

その部屋から出ようとした夢界は突然声を掛けられた。が、今の夢界にはこのお化け屋敷をどうでるかにしか頭が回らず、その声の主を変な風に予想してしまった。

夢界はまず木谷達を思い浮かべた。しかしあの三人は疲れていたし、来ないだろうと思っているので却下された。次に後ろの人達だが、チラリと見ても知っている顔は一つも無かったのでそれも有り得ないだろう。そして最後に思いついたのは、狼男が自分の方に手を置いたのではないかと言う予想。

普通ならそうは思わないだろうが、場所が場所だけに夢界はそう勘違いしてしまった。そしてもう少しちゃんと頭が回転していれば後ろを振り向いただろう。しかし夢界は恐怖からか、後ろを振り返らずに叫び、走りながら逃げてしまった。

その後は前にどれだけ前にいようが走っていた。もしかしたらまだ何かが追ってくるかもしれないという不安を感じたから。走っていたお陰ですぐに出口に付く事が出来た。動く象も無視して外にでる。

「疲れた」

走って疲れない方がおかしいが、夢界はそうつぶやいた。そうして先ほど分かれた場所へ行き、木谷達を発見した。しかし一人足りない気がしているのは夢界の気のせいでは無い。

「おお、戻ってきたか。ってあれ?」
「雄飛は?」

気づけばハモっていた。しかしその息の良さを笑うよりも三人は雄飛の事が気になった。

「何で雄飛がいないの?」
「あれ?お前雄飛に中で会わなかった?」
「会ってない、ってもしかしてあの手は」
「俺の手だよ」

後ろを振り向くと和泉が立っていた。

「ただ声を掛けただけなのに、逃げられた」
「いや、あはは。御免」

とりあえず謝る。それが逃げた事に対してか、それとも迷惑を掛けた事に対してか、それについては本人にも分かっていないが。

「ところで、李音」

和泉が夢界の肩を見て声を掛ける。少し呆れたような声に少し疑問に思いながらも夢界は首を傾げた。

「ポシェットは?」

言われてハッとする。確かに夢界はポシェットを持っていなかった。そこで和泉は溜息をついた。

「俺が声を掛けた後、少し右の方で音がしたから、多分それだ」
「またあそこに行くの!?もう、嫌だぁ!」

叫びながらも李音はお化け屋敷の方へ走りだしていた。

「ところで」
「どうした、羽留」
「係員の人に探して貰えば良いんじゃないか?」

その言葉に木谷の動きが止まった。そしてお化け屋敷に入っていった李音を見て、三人は同時に溜息をついた。