残り十分か。落ち着け、落ち着くんだ。落ち着けば自ずと答えは出てくる筈だ。この二年間俺はこの時の為に必死で勉強してきたんだ。その成果をここで出さなくてどうする。これで失敗したら俺は仲間の笑い者だ。一生何だかんだと言われるなんて御免だ。

こんなのただの二択だ。二つに一つ、確立は二分の一。大丈夫、落ち着けば何とかなる。さて、どっちにするか。安易に考えれば自滅するだけだ。

だが、しかしこれはどうすれば。焦るな。先輩も言っていた筈だ。『何事も落ち着いてやれば大丈夫だ。落ち着いていたのに失敗した奴もいたけどな』って。……失敗、するのか。落ち着いてても。失敗なんてしたくない。

駄目だ、精神が乱されている。集中だ集中。しかし分からないな。待てよ。昔話でこういう話があったな。大きい箱を開けると何も無くて、小さい箱を開けると金が沢山あるという話が。そうか、小さい方が良いんだな。

良し、二つとも同じ大きさだ。

……どうする。しかしこんな緊張感は初めてだ。まさにデット オア アライヴ。生か死か。せいか鹿。聖歌鹿。……そうか、歌うのか、鹿が。世も末だな。

鹿が歌うのか。そんな事はどうでも良い。それよりお茶が欲しいね。そう言えば自動販売機で缶ジュースは前、110円だったんだよな。何で120円に値上がりしちまうんだよ。10円高くなる苦しみが分かるのだろうか。10本買ったら110円の頃より100円も損している事になる。100本買えば1000円も。

いかんいかん。脱線し過ぎてしまった。悪い癖だ。良く先輩にも言われた物だ。『お前は集中力が足りない』と。全く、爆弾処理班の名が泣くぜ。

選択肢は二つ。赤か青か。どちらのコードを切れば良い物か。赤か、青か。馬鹿か青か。馬鹿かアホか。そうだな。どっちも変わらないような気もするが、馬鹿の方が良く言われるな。俺って馬鹿なのか?いや、馬鹿だったら爆弾処理班に何かなれる筈が無い。

そもそも馬鹿って社会的常識に欠けてたり、変な事をした奴が馬鹿って言うんだろ。俺って社会的常識に外れてるのか?俺はそう思った事は無いけどな。って言うか、馬鹿って言う奴が本当の馬鹿なんだよ。

待て待て、また脱線しているぞ。集中だ集中。集……中。

良し、決めた、青を切ろう。このニッパーで、硬いな。もう少し、切れた。爆発は、しない。カウントも止まった。良し、成功したぞ。疲れたな。早く帰ってビール飲んで寝よう。今日は。

頭がひりひりする。後頭部に何かが当たったようだ。何だ、これは。時計か。壁に掛かっていたのが落ちていたんだな。お陰で目が覚めたよ。さて、朝ご飯は。……朝ご飯はニッパーと赤と青のコードと4分20秒を表示しているカウントダウン。

まずい、もう4分しかない。そう言えばさっきの夢だと青で爆発が止まったな。夢を信じるか。それとももう一度良く考えるか。

そう言えば、犯人が捕まる前に何か言っていたな。確か、『俺はこの世の中が大嫌いなんだよ。だから一度死のうと考えたが、その前に一つ何かやってみたかったんだよ』だったか。結局『何か』とは何なのだろうか。難しくて俺には分からん。

さて、ここから導き出せる答えは何だろうか。そうだな、犯人の言葉には少なからず、怒気が含まれていたな。赤は怒りの色と先人達は良く言った物だ。つまり赤なんだろう。

短慮過ぎるか。待てよ、奴は世の中が嫌いと言っていたな。嫌いなら好きになれば良いだけだろうに。全く馬鹿な奴もいたもんだ。

そうじゃなくて、赤か青か。そうだな、一度死のうと考えた、か。自殺で一番痛くない死に方って何だろうな。首吊りとかだと確かに首の骨が一瞬で折れるから痛みも分からなそうだけど。ん?でも首吊りって骨が折れるのか?それとも首が絞まって死ぬのか?どっちだろ。今度試してみるか。いや、試したら死ぬか。

待て待て、他にも言っていた事がある筈だ。『赤に気をつけるんだな』だったか。つまり赤を切ると爆発と言う事なのだろうか。いや、これは実は赤が危険だと言っといて実は青という可能性もある。

分からん。赤に気をつけろ。まさか、赤に『き』を付けるのか。き赤、赤き、赤ぎ、赤木。成る程、赤木か。携帯はどこだったかな。さてと、電話番号は。

「もしもし赤木か?」
『そうだけど、どうした?』
「いや、お前さぁ、赤と青どっちが好き?」
『突然何だよ』
「良いから、時間無いんだよ」
『そうだなぁ。赤かな』
「赤だな!ありがとう!」

持つべきものは良い友達と言う事だな。さて、ニッパーで赤のコードを、と。硬いな。夢と同じだ。まあ、これで終わりだ。帰ったら本当に冷えたビールでも飲みたいもんだね。良し、切れた。




『今日、午後3時過ぎに○○デパートが爆破されました。死傷者は一人、軽傷者が四人です。警察は現在犯人に何故このような事をしたのか事情聴取しておりますが、動機の真意は未だに定かではありません。情報が入り次第、お伝え致します。それでは次のニュースです。………』